表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪役令息に転生したオレは、勇者のために死ぬべきか~それは処刑前夜に始まった。世界に殺されるなら、運命に抗い脱獄する――これがオレの物語だ~【完結】  作者: 未玖乃尚
第六章 勇者、悪役と観察者そして……

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

62/70

62 《当事者》おとぎ話

 くそ。

 私はイズルのことを何も理解できていなかった。

 分かり合うだけの時間がまるで足りない。


 そんな現実に気付いたとき、築き上げたはずの防波堤は価値をなくした。

 翼が最後の砦だ。光を遮り、心を闇に沈める。

 自分を見つめ直すには、太陽の光は眩しすぎる。


 私はイズルの本当の顔を知りたい。

 闇に紛れて頬を拭う。


 これが天使だって?

 ずいぶん感傷的な天使がいたもんだ。


 イズルは、私が感情をなだめるのを待つかのように言葉を発しない。

 いつもは自分勝手で強引なくせに、こんなときには私に合わせるのかよ。


 喉の奥が震える。言葉を吐き出せば、感情が堰を切って溢れる。

 言葉を、繋げられない。


「オレとお前の物語が衝突したって、同じ未来を描けば構わないだろ?」

 翼を隔てて、イズルが穏やかな口調で私に問いかける。


「こんな話がある。架空世界の悪役が語る過去の話に過ぎない。この世界の筋書きには何の影響も与えない、とってつけたような話だ」

 イズルは返事を求めない。私は翼越しに耳を傾ける。


「昔々、それはそれは悪い盗賊団がいました。彼らは毎日毎日町や村に出かけて帰ってきては、酒宴を開いていました。盗賊団には加入したばかりの少年がいました。少年はそれはまあ、ませたクソガキで、女の子とお話して笑顔を見るのが好きな少年でした。ある日少年は、楽しそうに酒宴を開く盗賊団が何をしているのか、覗いてみることにしました……」

 イズルはおとぎ話のような語り口で、淡々と抑揚なく話す。


「そこには強奪された酒や食料が並べられ、村娘は盗賊の相手をさせられていました。酒臭い盗賊たちは笑い、女の子たちが泣いていたのです。女の子の笑顔が好きなマセガキは思いました。こいつらが女の子を不幸にしてる、と」


 イズルは何を意図してこんなことを私に聞かせるのだろう?

 そんな疑問が、逆に私を引き込む。


「翌朝、少年は壊滅した盗賊団のアジトから旅立ちました。お、し、まい!」

 会話の内容にそぐわない、おどけた口調でイズルは言った。

「オレにとって過去なんて未来への動機にすぎない。女の子は笑ってるからこそかわいい。オレが欲しい物はたくさんある。その中でも一番欲しいものは……」


 暗闇に、光が差す。


 それはキラキラと輝いていて……


 重ねた翼に生じた隙間に、イズルが指をくぐらせた。

 例えるならばそれはノックだ。


 部屋に籠った私に、入ってもいいかと囁きかけるように優しく響く音……

 そっと、扉を開こうと。反応を確かめながら、イズルは、私の翼をこじ開けた。


「かわいい笑顔のために、オレは生きてる」

 それは、待ち焦がれたプレゼントの箱を開けた子供のように……

 イズルの無邪気な笑顔が、私の闇を解き放った。


「あれ?」

「笑ってないっての」


 あれだけ命のやり取りをして、泣かせておいて、暗い過去の話を聞かせて、すぐに笑えるとでも思ってるのか、こいつは。


「かわいい笑顔を期待していたんだが」

「どこに笑う要素があるっていうのよ。あんたがどっかの盗賊団を潰したって話しただけでしょうが」


「オレの過去とは言っていない」

「女好きのマセガキってあんたしかいないでしょ」

「女の子の笑顔が好きなマセガキであって、女好きとは言っていない」

「じゃあ、嫌いなの?」

「好きだけど」


 生き残るためだけに、戦っていたわけじゃないんだね。

 私はイズルを理解できていなかった。


 でも、今までのイズルも嘘じゃなかった。

 良かった。

 イズルの気持ちは、私に届いたよ。


「やっと笑った」

 そういってイズルが微笑むと、私は頬に温もりを感じた。

 荒野に吹き荒れていた風が、太陽に温められ、穏やかに草木を撫でていた。


「余計な回り道するんじゃないっての」

 緑の香を嗅ごうと空気を吸った。


「女の子の笑顔を見るために回り道をするのが、オレの生きる道だ」

 ジュリアンに、知らないはずのイズルの顔が重なった。

 そんな錯覚に私は心が和むのを感じた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ