6 引き出せた情報
リュシエルは原作について詳しく教えるつもりはないらしい。
処刑の話をして、オレが速攻で脱獄したのも気に食わないようだ。
話を聞いていなくても、殺されそうになればオレは逃げていたんだが。
そのため、原作の主人公も目的も不明だ。
断片から自分で探っていくしかないだろう。
とりあえず分かっているのは、物語の展開上オレは断頭台で殺されるはずだったらしいということだ。
基本的な情報だけ、という制限付きでリュシエルから情報を引き出した。
分かったのはジュリアンについてだ。
原作では二十三歳で、前世のオレより年上だ。
悪役令息と揶揄されるほど傲慢で我儘で、贅沢の限りを尽くしていた。つまり聖人君子のオレとは正反対ということになる。
さぞや腹も出ているのだろうと、撫でてみた。
「痩せすぎだろ!」
湖での水面の違和感は、確信に変わっていた。
馬上で揺れる体は、冒険者時代のオレと比べると骨と皮だ。
服を引っ張って、頭を突っ込む。
「アバラで洗濯できるぞ、これ」
風で草木が揺れる。ジュリアンも吹かれて揺れる。手綱を握っていないと落ちそうだ。
暗闇を駆け巡った昨夜から、空腹が紛れるまで、自分の肉体を把握しようとしていなかった。
男の体なんてみたくないしな。
「これならレベル1も納得できるな」
「そんな体でよく生き延びれたわね、あんた」
「投獄で、こんなに痩せたのか。どれくらいの期間だ?」
「一週間くらいかな」
「それでこんなに痩せるのか? 投獄前にダイエットでもしてたのかよ」
腹部の垂れた皮は、服の上からでもつまめる。
「その先は言わない」
「ふうん。筋に関わる危険があるってか?」
「言わないってば」
「あっそ」
答えを得られないなら深追いはしない。
目的は、生き残ることだからな。ジュリアンの情報も重要だが、オレが今何をできるか把握しておくことも大切だ。
この世界は小説内とはいえ、ある程度現実に即している。
生物では馬と、肉食の猛禽は現実でも存在していた。
最も典型的なのは、魔法の体系だ。
魔法は骨組みと燃料の両輪といえる。
オレの想像力の及ぶ範囲内で魔法を組み上げることはできる。稼働させるための魔力が、ジュリアンの肉体には足りない。
逆に言えば、魔力さえ補えれば魔法は使える。
対策として手っ取り早いのはレベル上げか。
「そういえば、さっき湖で化け物倒したよな。あれで、レベル上がったんじゃないか?」
「ああ、倒しちゃったね。あれでイズルが死んでれば、私も家に帰れたんだけど」
「一緒にあの魚喰っといて、よくもそんなことが言えるな」
「じゃあ、食費代わりにレベル見てあげるよ」
「オレが自分で確認はできないのか?」
「残念ながらね。作中でレベルを見れるキャラは、神に仕える神父か巫女、あとは……」
リュシエルは腕組みして宙に視線を向ける。
「勇者、だね。そして、天使である私」
「女勇者か?」
「男だよ、何バカなこと言ってんのよ、あんたは」
リュシエルの周囲に神気が宿り、瞳に仄かな明かりを灯した。
「レベル10くらいにはなってるだろ」
「えっと……3だね」
「レベル33か。思ってたより上がったな」
「シンプルに3だよ。1、2、3、つまり2つ上がっただけ」
「レベル333ではなく?」
「そんなレベルは、この世界に存在しない」
「ちなみに冒険者の平均は?」
「20くらいかな?」
ぽい。
投げ捨てた。故障した天使なんぞいらん。
「何すんじゃい!」
「観察者を気取るなら中立性くらい保て」
「私は単なる見届け人だから、わざわざ騙したりしないよ。ただ……」
言いよどむ。
「イズルは、レベルが上がったときの上昇幅が大きい。きっと魂であるイズルの潜在能力の高さを示してるんだと思う」
そこまで教えなくてもいいのにな。
リュシエルは性格は悪いが、嘘をつけないようだ。真面目なヤツ。
「さっさと元のオレに追いついてもらわないとな。転生前のオレはレベルいくつだった?」
何しろジュリアンは骨と皮の紙人形状態だ。
イズルのポテンシャルを引きだす肉体を作ることが鍵になりそうだ。
「あの世界にレベルなんて概念はないよ。けど、あえて換算するとしたら……」
リュシエルは呟きながら指を折る。
「え? あんた本当に人間だったの?」
「あたり前だ」
「うそ、実は魔人とかじゃないの?」
「オレを化け物扱いすんな」
「いや。化け物がかわいいくらい。ごめん、私にはあんたの以前のレベルなんて分からないわ」
「レベルを上げて肉体を戻せば、死亡フラグにも勝てそうだな」
「時間はそこまで待ってくれないよ。私だってそう」
リュシエルは天に向かって両手を合わせた。
「早くイズルが死んで家に帰れますように」
やはりこの天使は性格が劣悪だ。
妙に真面目なところと顔だけはかわいいが。
ついでに食べてるときもかわいいな。




