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悪役令息に転生したオレは、勇者のために死ぬべきか~それは処刑前夜に始まった。世界に殺されるなら、運命に抗い脱獄する――これがオレの物語だ~【2/2完結予定】  作者: 未玖乃尚
第六章 勇者、悪役と観察者そして……

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58 《観察者》線の残骸

 澄んだ緑の香を胸一杯に吸い込みながら、草むらに座ってイズルと食事をしていると、ふと考える。

 だから、これは、いつものただの妄想だ。


 例えば、木のテーブルにお皿を並べて、イズルと食事を取る。

 私たちはいつものように軽口を叩き合う。


 例えば、お店で食後にフルーツを食べる。

 果実を食べさせ合うこともするだろう。


 例えば、家でケーキを食べる。

 がさつなイズルだから、きっとほっぺにクリームをつけて、そして私は……


 いつも、そこで妄想は途切れる。

 私はイズルの顔を知らない。

 思い描こうとしても、浮かぶのはジュリアンであってイズルじゃない。


 キャンバスに描こうした絵が気に入らなくて、苛立ちを紛らわせようと鉛筆で乱雑に潰す。

 私の中のイズルは、そんな完成を放棄した絵に沈む、絡んだ線の残骸だ。

 本当のイズルを見ることも、もちろん触れ合うことなど永遠にこない。


 だから、私はきっと、いつか描くことを諦めて、全ての失敗作を破り捨てるだろう。

 それが未練を捨てるって、ことなんだ。


 記憶はいつか、時間とともに薄れていくはずだから。


「何ぼけっとしてんだ」

 食事を終えたイズルが片肘をついていた。


「いいね、イズルは悩みがなさそうで」

「さりげなく、オレをお前と同類にするんじゃない」

 イズルは欠伸をして、グラドールの尻尾に頭を預けて横たわる。


「さて、朝食後の一服を終えたら、竜王城へ出発だ」

 こうして私たちの最後の食事は終わった。

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