56 《勇者》確定した未来
「それさえあれば、僕たちは……」
真理の剣はエミルの心をかき乱した。竜鱗の剣を手にしてもなお、真理の剣はエミルを焦がす。
想いから逃れるようにして、見上げた天井には無機質な空間だけがあった。
まるで自分の鏡を映しているようだとエミルには思えた。
ふと、夢を見ることがある。
ジュリアンの処刑に違和感を覚え、真贋の目でグスタフの正体を見破る。
そんな世界だった。
真実を暴くため、リリアの試練を突破して真理の剣を授かり、ゴードンやキュロと肩を組んで笑い合う光景だ。
ジュリアンの冤罪を白日の下に晒して、竜王軍の四天王たちを次々と撃破する。最後は仲間と助け合って竜王を倒し凱旋する。
故郷を旅立つ前夜も、そんな夢を見た。
きっと、それは確定した未来だった。夢とはいえ、真実を示すこの目が見たのだから。
狂いが生じたのは……
エミルは視線を戻す。
ジュリアン、君がその剣を巫女から受け継いだからだ。
白銀の剣は、この白銀の鎧にこそふさわしい。
あれさえあれば、鎧はこれほど血腥く穢れなかっただろう。
ゴードンもキュロも死なずに、もっと華やかな旅を続けてこれたはずだ。
かつての夢が希望の未来なら、現実はまるで悪夢だ。
いや、もしかするとこの瞬間こそが夢なのかもしれない。どこかで精神攻撃を受けて、悪夢をさ迷っている可能性だってある。
目覚めると真理の剣で戦う自分がいるのではないか。
そんな考えがよぎったとき、エミルは希望の世界が自分の名を呼ぶように感じた。
勇者エミル、勇者エミル、とパレードを見守る群衆が、エミル一行を拍手で出迎える。
暗闇に浮かぶのは理想の未来だった。
理想の現実へ戻る手段は一つだけ。真理の剣で、この絶望の世界を引き裂くこと。
そうすれば悪夢から解放されるはずだ。
暗闇がそう語り掛ける。
真理の剣は僕が持つのにふさわしい、エミルはそう確信した。
だから貰う。
勇者は一人いれば十分だ。
「勇者は二人もいらない。どちらが本物か決めようじゃないか」




