52 【改変ルート】描けない顔
「あーん」
口を開けたリュシエルに、デザートの果実を押し込んでやる。
「あっまーい」
甘さに体を捩じらせて、リュシエルは螺旋を描いて飛んだ。
食事を終えて洞窟を出ると、澄んだ夜空には、ひっくり返したように星がばら撒かれていた。
瞬く星を繋いで、夜空に絵を描く。
小さな天使が完成し声を出して笑った。
「何笑ってんのよ」
「見てみろ。星をこうして繋ぐと」
オレは天に向かって腕を振り回した。
「リュシエルの出来上がりだ」
「分かんないわよ」
「オレが分かればいいんだよ」
「じゃあ、私も」
リュシエルは首を捻りながら、星を線で結んだ。月が横顔を照らす。角度によって、輝いたり影がよぎったりする。
彼女の表情は月によって、何色にも変化した。
「じっと見ないでよ。恥ずかしいじゃん」
「おっと美女に見惚れてた」
「ずるいな、イズルは」
リュシエルは空に掲げた手を止める。
腕を下ろして眉尻を下げる。
「あんたは私を知ってるのに、私はあんたを知らない」
「ここまで二人で旅してきたんだ。オレのことは十分知っているはずたろ」
リュシエルは首を振る。
「ジュリアンの顔を思い浮かべることは出来る。でもイズルの顔を夜空に描くことは出来ないよ」
これまでリュシエルとの時間を過ごしたのは、転生世界のジュリアンだ。
神にとっての罪人イズルではない。本当のオレは外界の住人だ。
「そうだな。リュシエルには、本当のオレを見せてやりたいな。ジュリアンよりもカッコいいぞ」
「外見の問題じゃないよ。やっぱり、魂と肉体が揃ってこそ、本物でしょ?」
「なあ、お前が望めば……」
言いかけた言葉を、リュシエルの小さな指先が遮った。
「イズル。神を甘く考えてはダメ。あんたはこの世界での死を定められている。逃れられない」
指が、離れる。
「オレはこれまで、ずっと自分の望みを叶えてきた。どうしてか分かるか?」
リュシエルは続きを促そうと曖昧に頷き、笑顔を滲ませようとした。
「誰にも支配させない、これはオレが選び取る物語だからだ。これからもオレは自分の望む未来を掴み続ける」
「そうだね。イズルならきっとそう言うと思ったよ」
リュシエルの羽根がスッとオレの頬を掠めた。
「先寝るね」
オレは洞窟の暗がりに消えるまで、リュシエルを見送った。
夜空に向かって剣を構えた。亀裂は、オレの頭くらいなら飲み込みそうなほどに大きくなっていた。
今日も糸は揺れている。オレに呼びかけるかのように。
呼びかけに答える手段は、この冒険を終わらせることだけだ。




