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悪役令息に転生したオレは、勇者のために死ぬべきか~それは処刑前夜に始まった。世界に殺されるなら、運命に抗い脱獄する――これがオレの物語だ~  作者: 未玖乃尚
第五章 改変ルート

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48 【分岐ルート】勇者の仲間は……

 朝から死の谷を攻略することが、エミルたちのその日の目標だった。

 短時間での踏破に成功すれば、まだ到着していないイズルを突き放す絶好の機会となる。


 …………


 エミルとキュロは迷いの森での反省を踏まえ、谷の入り口で体力回復のために休息を取った。


 死の谷。竜王城への最短の道だ。

 死者の魂が人を惑わせる。地元の人間すらも近寄らない。谷に踏み込んで、キュロは直感的に理由を察した。


 身震いするほどの冷えと、鉛のような瘴気が手足に纏わりついた。視界を惑わす靄は、幽世に繋がっているかのようだ。

 エミルの背中だけが頼りだった。


 またか、とキュロは自責した。竜王に近づいているというのに、未だに真贋の目頼りだ。

 ひたすらエミルを追いかけているという構図は、迷いの森を否応なしに思い起こさせた。

 違うのは、ゴードンがいない現実だけだ。


「すまない」

 正面を見据えたままエミルがいった。

 表情を伺い知ることはできない。


「僕が真理の剣を入手出来ていれば、この谷の攻略難度は、もっと下がっていたはずなのに」

 森でも同じように真理の剣について会話をした。きっと、この瞬間のエミルには、ゴードンの死が鮮明に蘇っている。そしてまた悔恨に苛まれているのだろう。


 エミルは自分の力不足を責めているが、見当外れだとキュロは知っていた。

 なぜならゴードンが死んだのは、自分が彼を見捨て、回復を怠ったからだ。


「エミル、あなたは竜王を倒すことに専念して下さい。そのために、一刻も早く谷を出ましょう」

 キュロは予感していた。


 ジュリアンは、必ず竜王城に姿を現す。エミルの勇者としての立場を揺るがす存在があるとしたら、あの男だ。

 遅れを取るわけにはいかない。


 ゴードンの喪失という事態があったにせよ、旅の工程は順調に進んでいる。

 キュロはその結果に満足していた。


 あなたの犠牲はムダではありませんでしたよ、ゴードン。

 キュロは靄に遮られた虚空を眺め、竜王を倒した暁には、是非とも自分たちを祝福して欲しいと願った。

 そんな、キュロの思いに返答するように、ケタケタと笑い声のようなものが聞こえてきた。


「エミル、今声がしませんでしたか」

 耳を澄ませた。

「ああ、確かに聞こえた」


 死の谷は魂の集積所。だとしたら亡霊の声だとでも言うのか。

 キュロを嘲笑うかのように声は広がる。近くから遠くへと、螺旋状に木霊するかの如く、声が波紋を描いた。


「何だ、この声?」

 キュロの頭の中で笑いが響き出した。耳を塞いでも静まらない。声が増幅された。


「うるさい、黙れ!」

 キュロは叫声で消し去ろうとした。

 途端に両肩を掴まれた。


「キュロ、落ち着くんだ」

 エミルだった。エミルの顔が左右にズレた。切断したように輪郭が崩れる。

「エミ……ル?」


「正気を保つんだ」

 もつれた紐の顔をした勇者がキュロの肩を揺さぶった。

「亡霊じゃない。魂が集まる場所なんて話はでたらめだ」


 真贋の目がエミルに真実を映したというのか。だとしたら、この声は何だ?

 キュロは首を激しく振り、現実に回帰しようと試みる。


「ここは土地から湧いた瘴気を食う、魔物の住処だ!」

 風を斬る音がした。エミルの気配が緊迫度を増した。


 敵か、敵がいるのか。エミルを援護しないと。

 キュロは支援魔法を発動させようとしたものの、エミルの姿を見失っていた。

 敵も味方も、もつれた紐となって、キュロには判別できなかった。


 索敵魔法を発動させる。脳裏に敵の位置情報が光点となって刻まれた。視界を遮断し、敵に向かって魔法を打ち込んだ。


「キュロ無理しなくていい」

 エミルは戦いの最中でも仲間の安否を気にしている。


 実に勇者らしい。エミルはいつだって、自分よりも周囲の人々を気にかけている。だからこそ、仲間にして欲しいと頼み込んだ。


 幼いころから魔法の才に恵まれ、キュロは自分こそが竜王を倒すのだと信じ切っていた。

 エミルの剣は的確に敵を断つ。

 かつてのキュロの自信を打ち砕いた勇者の剣は健在だ。何が起きても彼の剣先が鈍るようなことがあってはならない。


 キュロの故郷が魔物に襲われ、家族すらも守れない自分に絶望したとき、救ってくれたのが勇者エミルだった。

 最後まであきらめず、勇気を振り絞れるものこそが勇者なのだと悟った。勇者エミルは誰よりも眩しかった。勇者が切り開く未来を一番近くで見たいと思った。


 露払いが自分の役目だ。

 エミルに身体強化を施した。

 目を閉じていたってわかる。エミルを示す光点は誰よりも輝き、敵の数を減らしていった。


 あなたは少し我儘になったほうがいい。

 キュロは広範囲魔法で敵を焼き払った。

 エミルの命は、自分たちとは対等ではない。もしも仲間があなたの枷になるのなら、あなたは振り返らずに進むべきだ。


 仲間は勇者のために死ぬことを誇りに思うのだから。

 脳裏に光が煌めいた。キュロの眼前に、光点が位置していた。新たな敵が出現したのだと察知した。


 キュロは、ゆっくりと瞼を上げた。

 それが誰なのかはすぐに分かった。ずっと一緒に旅をしてきたのだ。


 見慣れた深紅のブーツに、鍛錬を重ねて作り上げた太もも、なまくらな刃なら跳ね返してしまうほど強靭な胸板、豪快に笑う口は、固く閉じられていた。


「ゴードン?」

 キュロは死んだはずの仲間の名を呟いた。

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