46 【正規ルート】交戦×交錯
グラドールが蛇行し、竜人を振り切ろうと旋回する。
突き放せても一時的なものだ。じきに取り囲まれるだろう。
「追いつかれるぞ」
焦りを滲ませながらも、グラドールは虚をつくように急速に進路を変更し、地上へ向かった。
「ナイス」
上空に竜人の群れが一望できた。
真理の剣に魔力の刃を継ぎ足した。空を両断できそうなほどの巨大な剣が完成する。
風が、途切れる。
剣を振るった。
突風が吹き抜け、竜人たちの体が上下に裂けた。
「お前らは、オレのレベルを上げるための材料だな」
「違う。俺を隠す盾だ」
後方から、群れを貫いて影が現れた。
喉を狙う槍撃を弾いた。重みを宿した一撃に剣を零しそうになる。
「よく耐えたな。ザルドナの反応が途絶えたのは貴様が原因か」
声の主は、先ほどの竜人たちよりは、人間に近い竜王寄りの顔立ちだった。棚引く髪が意志を持つようにうねる。
「お前が最後の四天王か」
「人間を頼るとは、竜族も堕ちたものだな。やはり、竜を冠する種族は我ら竜人族だけで良い」
「アルザーク!」
竜の咆哮が響いた。尻尾を叩きつける。アルザークは翼を翻して、軽やかに竜に降り立った。
「やはりザルドナにくれてやらず、殺しておけば良かったか。まあ、しかし」
眉を跳ねさせ、酷薄な笑みを浮かべる。
「勇者と最後の竜の首を並べて献上すれば、竜王様もお喜びに……」
最後まで言わせずに剣を払う。
「黙ってろ。オレは簡単に死んでやらんぞ」
聞こえるか、どんな駒を使ってもムダだと教えてやる。
懐に飛び込む。アルザークが羽ばたいた。
空中戦への誘いには応じない。
竜の背で腰を落として次の動きに備えた。
一定の距離を保ちつつ、竜とアルザークが空を駆ける。
浮遊魔法は時間に応じて魔力を消費する。アルザークはその事実を見越しているはずだ。
「どうした来ないのか?」
アルザークが手招きして呼びかける。
「ふらふら飛ぶな。足を着けて正々堂々戦おうじゃないか」
「俺には槍と翼がある。わざわざ有利な条件を放棄するとでも?」
アルザークの言い分は正論だ。
「条件を揃えたうえで勝つことこそ、武人の誉だろ!」
ドワーフの四天王なら喜んで付き合いそうな呼びかけをしたが、こいつはそう単純でもないらしい。
「笑止千万、だな」
剣の届かない距離でアルザークが槍を構えた。
「同感だ」
槍を向けられ意識が集中したことを確認し、オレは足の爪先を叩いて合図した。
グラドールが翼を傾けて、アルザークの死角に入る。
攻撃直前だったアルザークには、オレが消えたように映るだろう。
竜の背中を蹴り浮遊魔法を発動させ、後方から斬りかかった。
「ぼけっとすんなよ」
ザンッ、と剣が虚空を薙いだ。上空に逃れたアルザークの姿があった。
お互い攻撃の射程外。
手首を返して剣を振るう。
「そんなところから剣が届くわけがなかろう」
「そう思ってくれるのはありがたいな」
瞬間的に魔力を増幅させる。真理の剣を振った。
切っ先から魔力の刃が放たれ、アルザークとの距離を埋めた。
唐突に飛び出した刃にアルザークが驚愕する。体を捩じって軌道から逃がそうとするが刃の到達が先だった。
白刃が片翼を奪った。魔法で接近し、バランスを崩したアルザークに剣を振るう。
それは、影だった。
視界の隅をよぎった異形が、オレの注意を削いだ。
甲冑に身を固めた幽光だった。青白い輝きを胸に宿し、大剣を担いだ骸骨が、ゆらりと手を伸ばす。
何だこいつ?
アルザークの仕業じゃない。
別方向からの、実体を持たない遠隔魔法だ。
「イズル!」
リュシエルが叫んだ。
骸骨がオレに向けて開いた指を閉じた。周囲の空間が凝縮する。心臓を掴まれたような圧迫感が生じた。
魔力回路に干渉している。ザルドナと同じ手法だ。オレの魔法を封じるつもりだ。
しかもこの侵食速度はザルドナを凌駕している。
まずい。
体内に魔力を巡らせて抵抗する。浮遊魔法を切断して侵食に対処する。
グラドールが旋回した。オレを受け止めようと駆ける。
高度を考え、竜の到着より落下が先だと判断し、衝突に備えて障壁で体を覆う。
その直後障壁が破られた。
「死ねえ!」
アルザークの槍がこめかみを掠めた。
オレは槍の柄を掴んで引き寄せた。落下のダメージに配慮しながら、迫ったアルザークの胸に剣を突き立てた。
グウッと、くぐもった呻きを漏らすアルザークの髪を掴んで、刃を押し込む。
「離すかよ」
歯を食いしばる。バリバリと耳元で歯の軋む音がした。自由にすれば追撃を受ける。この場で仕留めなければオレが死ぬ。
「次から次へとやってくれるなぁっ!」
大空に向けて絶叫し、根元まで剣を押し込んだ。
景色が変わる。
周囲が白い靄で覆われた。温度が下がり肌から体温を奪った。
オレはアルザークの絶命を確認し、その体を引きがした。
衝撃が、背中から全身に響き渡った。障壁の残滓で緩和してもなお、体を砕きかねない振動が駆け巡った。
「があっ!」
空気が喉を突き上げた。
こんな声を出したのは久々だ。オレにこんなことしてただで済むと思うなよ。
地面に爪を突き立てながらも、意識は少しずつ遠ざかっていった。




