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悪役令息に転生したオレは、勇者のために死ぬべきか~処刑前夜から始める異世界脱獄物語~  作者: 未玖乃尚
第五章 改変ルート

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42 【分岐ルート】折れた鉛筆

 森を抜けてエミルたちは、ようやく村に到達した。

 エミルの足取りは重かった。


 俯くと煌びやかな鎧がくすんで見えた。それほど打ちひしがれているのだろうか。

 すれ違う村人が振り返る。


 辺境の村に住む人々には、白銀の甲冑が珍しいのだろう。

 エミルはなるべく疲れを表情に出さないように口角を上げ、会釈しながら通り過ぎる。


 夕陽がエミルの影を映し出す。

 丸まった背筋を正した。

 姿勢を保つことが、気力を維持することに繋がるのだと信じた。


「大丈夫ですか、エミル?」

 隣に並んだキュロが問いかけた。彼にも疲労の色が濃く出ている。

 激戦を潜り抜けてきたのだ。当然だった。


「僕は大丈夫だよ。キュロのほうこそ魔力を使い切って疲れただろう? ダメだな、僕は。まだまだ勇者として足りないものが多すぎる」

 竜王城への近道を優先し、険しいルートを選んだのは自分だ。


 見通しが甘かったことに憤り、エミルは腿に拳をぶつけた。自分の決断に対する非難でもあった。ジュリアンとの競争を優先していなかったか、と。


「私がしっかりしていなかったせいです。もう、油断はしません。これからはいかなる時も最善を尽くします」

 エミルはキュロの自戒を目を閉じて受け止めた。


 彼の言葉は、自分にこそ当てはまる。改めて胸に刻む。

 勇者として竜王を討伐することを優先する。敵の本拠地に近づくにつれ、戦いは苛烈さを極めるだろう。

 油断を後悔する余裕すら与えられないはずだ。


「悪は僕が必ず滅する」

 破邪の剣は、悪にこそ効果を発揮する。


「竜王こそ、この世の悪の象徴だ」

 エミルは誓う。

「この剣の前に立ちはだかる敵は、必ず切り捨てる」

 竜王だけに縛られてはならない。敵を悪と見なす意志の力が不可欠だ。


「無理はしないでくださいね。エミルに万が一のことががあれば、この世界に残るのは、絶望です。何なら明日は休息しても……」

「いや」

 エミルは言葉を遮った。


「のんびりしている場合じゃない。僕は明日には出発したいと思ってる。キュロはどうかな?」

「異論はありません」


 宿屋につくと、エミルは手続きをしようとした。

 カウンターに広げられた宿帳に、手際よく自分とキュロ、続いて三人目の名を書こうとして、鉛筆の芯を折ってしまった。


「エミル?」

「あ、すみません」

 うつむいたまま、エミルは主人に謝る。唇を噛んだ。血の味がした。


 字が、ぼやけた。

「構いませんよ。では、お部屋にご案内しますね」

 宿屋の主は気さくに答えた。


 エミルは戦いに汚れた手で、乱暴に目をこすった。

「キュロ、行こうか」


 部屋で一人になり甲冑を脱ぐと、エミルはベッドに倒れ込んだ。

「疲れた……」

 思えば、冒険に出てから初めての言葉だ。それほど、肉体的にも精神的にも追い詰められた一日だったのか。


 竜王討伐の旅が簡単ではないことは理解していた。

「違う」

 理解してたつもりだったのだろう。


 覚悟が全く足りていなかった。

 精神的な未熟さが招いた結果だ。もう、甘さは捨てる。


 次の谷を越えれば、竜王城は間近だ。

 敵は僕がせん滅する。エミルは破邪の剣に語り掛けた。


「だから、今度こそ、僕に応えてくれよ」

 ジュリアン、君に出番は与えない。


 もう引き下がれないところまで来てしまったんだ。

 食事が準備されるまで、時間はまだある。


 少し、眠ろうか。

 エミルの瞼の裏に浮かんだのは、迷いの森での出来事だった……

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