41 【正規ルート】竜麟のペンダント
どうせ面倒なことだろうと諦め混じりに聞き返す。
勇者の物語というのは、厄介ごとを背負うものだ。
「私たちの住処を、竜人族アルザークから取り戻してほしい。仲間の魂を故郷に埋葬してやりたいのだ」
ほら来た。
四天王筆頭アルザークとの対決フラグ。
修正力は四天王との戦いを通じて、勇者ルートを歩むオレを処刑しようと目論んでいる。
極力、筋書きを変更せずにオレを殺すなら、竜王軍の幹部をぶつけるのが、効率的だろう。
「図々しいヤツだな。お前は世界の平和よりも、仲間の埋葬を優先するのか?」
「こらこら、暴言を吐くんじゃないよ、悪役令息」
リュシエルがペチペチとオレの頬を叩く。
「オレだって、命がかかってる。勇者は大変なんだよ」
関わらないで済むならならできるだけ避けたい。
「無論、タダとは言わん」
竜は大地を響かせ、巨大な前足の爪で、自らの体を掻きむしった。
爪に引っ掛かっていたのは、一片の鱗だった。
「竜麟……ワシも見るのは初めてだ。しかも、竜が自ら差し出すなど聞いたことがない」
ドグルドが掴もうとするより先に、オレは竜の爪から鱗を奪う。
鉄のような硬さがありながら、軽い。魔力も宿っている。
話に聞く通り、武具としても魔具としても使い道がありそうだ。
「その鱗は一時的な魔力の供給源としても利用できる。魔具として使用すれば、盾にもなり得る」
「よし、ワシが落とさないように加工してやろう」
鍛冶師魂が刺激されたのか、ドグルドはオレから竜麟をもぎ取って洞窟内に消えた。
竜の協力を得るにはアルザークとの戦いが必須か。
オレとしても、あの竜王と戦う前に、経験値を稼いでレベルを上昇させられるという利点は一応ある。
戦闘後に竜の住処で休息すれば、体力を回復させて、温存したまま拠点に乗り込めそうだ。
「リュシエル、オレのレベルはいくつになった?」
尋ねると、リュシエルはすぐに答えようとして迷いの色を浮かべた。
オレの死を見届ける役目の天使としては複雑な心境なのだろう。オレはもうレベル1のジュリアンではない。
現在のオレを殺せるような存在は、この世界には数えるほどしか残っていないはずだ。
「32だよ」
観念したようにリュシエルが言った。
ドワーフの里へ来るまでの戦いと、二回の四天王戦を通じてレベルが12上がったわけだ。
レベルの上昇速度が増した気がする。この感覚が正しいのならば、真理の剣がジュリアンの潜在能力を引き出し、魂であるイズルの力を受けられる器としての準備が整ってきたということだ。
まだまだ足らないぞ。
真理の剣、イズルの力はこんなものじゃない。もっと器の可能性を広げろ。
「待たせたな」
しばらく待つと、ドグルドが戻ってきた。
「鱗をミスリル製のワイヤーで固定した。これなら激しい戦闘でも落とさないぞ。さしずめ竜麟のペンダントってとこか」
ドグルドから渡され、オレはペンダントを首に掛けた。
「これも渡しておく」
オレは紺碧のマントを羽織った。
「魔力を含ませた糸で編んだものだ。ワシのマントのように変身はできないが、鎧並の防御力がある」
「それはいいな」
オレは出立の準備をする竜に飛び乗った。
尻の下がゴツゴツして硬い。座り心地が悪い。
「兄貴のこと頼んだぞ」
ドグルドの声をかき消すように、竜が翼を一振りした。大木の枝をざわめかせて、竜が飛翔した。
地面が一瞬で遠ざかる。
ドワーフの洞穴は確認できないくらい小さくなっていた。
「わあ、いい景色だね」
傍らのリュシエルが目を輝かせた。
「青い空に緑の大地、おまけに竜の背中。風が気持ちいいし、天国だね、ここは」
「オレはケツが痛くてそれどころじゃないがな」
リュシエルはオレの肩に腰をかけて、ブラブラ足を振り、上機嫌に笑う。
「でもまあ……」
最後の四天王との戦いを前に、美女の笑顔を間近で見るのも悪くはない。
天空に生じた亀裂は、傷口を広げている。糸はオレと繋がり、反応を伺っている。
オレは必ず筋書きを壊し、外へ出る。
行く手には竜王城がある。オレは城から手前へと線を描いた。
勇者エミルは、この景色のどこかにいるはずだ。
お前は物語をどこまで紡いでいる?
オレは自分の物語を完結させるまで止まるつもりはないぞ。
たとえ、この世界がお前のために存在しているのだとしても。




