40 【正規ルート】勇者が言いそうなセリフ
「なぜ手柄を譲った?」
どこからか低くかすれた声がした。聞き慣れない響きだ。
辺りを見回した。
「ワシじゃないぞ」
岩陰に隠れていたドグルドが、首を出して否定する。
「私も違うよ」
おとなしく戦況を見守っていたリュシエルが、大きく首を振った。
「ここだ」
尻尾を軽く揺すって、竜が顎を開く。
「お前かよ、急に話すから誰かと思ったぞ」
「ザルドナに止めを刺すならできたはずだ。なぜ、私に譲った?」
「恩を売りたかったから、かな」
「お見通しと言うわけか」
竜が話すたびに、牙に引っ掛かった石が緑色に輝く。
「爺さんがそれを見せびらかしたら、お前の顔つきが変わったからな。鱗と石のために竜を殺したことは想像できた」
「素材としての竜の鱗は、剣の切れ味、防具の強度を何倍にも高め、魔力の伝導率にも優れている」
リュシエルがオレに特性を説明する。
「竜麟も竜の煌めきも伝説級のアイテムだが、入手するのは不可能に近かった」
ドグルドはドワーフの鍛冶師だ。素材関連の情報にも詳しいはずだ。
「いずれも竜の命を断たねば、手に入らんものだ」
竜は苦し気に顔をしかめて吐き出すように言った。
「竜王の剣の素材集めのために、竜麟を求めてザルドナが攻めてきたってとこか」
フェグリム、ザルドナの話をまとめての答えだ。
「正確にはザルドナと四天王筆頭である竜人アルザークだ」
竜は熱を含んだ息を吐きだした。怨嗟を込めるように名を告げる。
「五頭いた竜も、私だけになってしまった」
「オレが仲間の仇を討ってやろう」
竜は直立して唸った。首肯するでもなく、嘲笑するでもなく、オレの発した言葉を咀嚼しているようだった。
「人間のお前に出来るのか、などとは言わん。現にお前は四天王のうち三柱を屠っている」
「その代わり、竜王城までオレを運んでもらおうか」
「背を貸す、それだけで良いと?」
「いいけど」
「私は背を貸すだけで復讐を果たせる。お前は命がけで竜王と戦う。お前に何のメリットがある?」
真意を探ろうと竜が問いかける。
オレにとっては、この物語の予定調和を壊せるという大きな報酬に繋がるのだが、説明しても理解されないだろう。
腕組みをしてもっともらしい理由を考える。
勇者物語で、勇者が言いそうなセリフだ。
「世界の平和だ」
遠い目をして言った。鳥肌が立つ。
これほどオレに似合わないセリフもないだろう。可愛い女の子のため、とか自分のためというくらいがオレにはちょうどいい。
「あー、世界を平和にしたい。竜がオレを運んでくれたら、世界は救われるんだけどな」
「イズル、心にもないこと言うんじゃないよ」
リュシエルが失礼なことを言う。
「全くないこともない」
「どうだか、あんたは女の子が絡まないとやる気を出さないだろうからね」
天使がため息をつく。
「世界を救うことは女の子を救うことにもつながるだろ」
会ったこともないような女性ばかりだけど、それでもいい。
「世界を救う、か。なるほど、勇者にふさわしい言葉だな」
納得したのか、竜は頷き満足げに尻尾を振る。
「さすが、ワシの見込んだ勇者だ。真理の剣に選ばれただけのことはある」
残念だな、ドグルド。オレは勇者ではない。
お前の目は節穴だ。
「よし、ではオレを竜王城へ運んでもらおうか」
竜に乗れば、ぼけっとしてても城へ到着する。
オレも楽できる。
「一つだけ、頼みがある」
「頼みって?」




