39 【正規ルート】竜の煌めき
衝撃で体が浮き上がった。舞い上がる土煙にオレは身を隠す。
「うひょーっ」
派手な攻撃に爺さんが歓喜の叫びを上げた。
オレは空中で爺さんの頭皮に狙いを定めた。
強制されただけの竜の攻撃なら、軌道を読みやすい。派手な攻撃に紛れれば、爺さんの注意も散漫になる。
足枷を解除する間ができた。
自由になればあとは反撃するだけだ。
爺さん目掛けて雷撃を落とすと、その瞬間、辺りが煌いた。
爺さんの周囲に障壁が出現した。
雷撃が、反射する。閃光が走った。
オレは魔力を放射して、無理やり体を逃す。雷撃が残像を貫いた。
「なんじゃ」
爺さんがため息混じりに、上にいるオレを見る。
「そこにいたのか、小童」
自動で発動したのか?
爺さんはオレの動きを把握していなかった。
にも関わらず、雷撃を跳ね返した。
反応して障壁を作っては間に合わないタイミングだった。
準備されていた半球体の膜が、雷撃に触れたことで鏡のように反射した。
自動発動型の障壁は、時間に比例して魔力が消費される。
魔法に長けた爺さんとはいえ、それだけの魔力を自力で賄えるほど高位の存在なのか?
爺さんの胸元で新緑が煌めいた。涙型の透明な石だった。
「それか」
着地するとオレは足首を回した。
「目ざといな。そう、これこそ竜の煌めきよ」
竜の喉が嘆くように唸る。
「死を迎えた竜は、最後に一粒の涙を零す。それがこれじゃ」
「それが魔力の源か。いいのか、オレにそんな情報を与えて」
素材としての竜麟、命の証となる竜の煌めき、不満げな竜。
「これは竜王様から頂いたもの。希少価値の高い戦利品なら、自慢して使いたくなるものじゃろう?」
「それは凄い。竜を殺して魔力の源と剣の素材を集められたら、竜王に勝てる者は存在しなくなるな」
「ひょひょひょ。その通りじゃ。竜人族の竜王様が間もなく世界を支配する。紛い物の竜族も間もなく滅び、残る人間族の勇者を殺せば、抵抗する者はいなくなるじゃろうて」
竜の首と尾がぴくりと反応した。
牙の合間から勢いよく息が吐き出され、突風となる。
調子に乗る爺さんだな。おだてるとペラペラしゃべってくれる。
「なあ、人間と竜が手を組むとは考えないのか?」
「竜族は絶滅寸前。人間族は……この場で勇者を殺せば終わりだ」
「だったら、竜人族の支配は絵空事だ。ここで死ぬのはオレじゃなくて、お前だからな」
「貴様に何ができる。魔法は全て自動で反射するぞ!」
「なら、こういうのはどうだ?」
オレは爺さんに手のひらを向けて、左から右へと払う。
漆黒の靄が発生し互いの視界を塞いでいく。
「竜王なんぞに支配されたくないなら邪魔すんなよ」
オレは、体を乗り出した竜に告げる。
こんな靄なんて、竜の鼻息で消し去ってしまえるだろう。
オレは剣を抜いた。
爺さんの生命線は、遠距離での魔法だ。至近距離ではオレの動きに付いてこれない。
靄を爺さんの周辺に巡らせ背後に回り込んだ。
「こんなもので何ができる!」
風が沸き起こる。爺さんなら魔法で靄を吹き飛ばせる。
まずは障壁を破壊する。
力技か解除魔法が主な方法だ。
オレは別の手段を選択した。
最も短時間で、魔力消費量を抑えるために、距離を詰め障壁に直接触れた。
障壁の流れを読み取り、魔力を注いで、波動を増幅させる。
障壁表面が波を打つ。
「何をした?」
爺さんが声を荒げた。
「解除魔法……? いや、直接干渉しておるのか。そんなことできるはずがっ!」
器から水が溢れるように、障壁表面で飛沫が躍る。
「障壁が、保てぬ」
障壁がひび割れ、砕け散った。
爺さんが風を纏う。風圧を増し、小柄な肉体を突き上げた。
防御の要が崩壊して、立て直しをしようと爺さんが上空へと逃れる。
「さあ、どうする?」
オレは問いかける。
構えた剣の切っ先が光った。
まだ追いかけて、一撃で仕留められる距離だ。
お前がやらないなら……
青空を影が遮った。
爺さんの体が衝撃で折れ曲がった。
大地が鳴り響く。竜の尾が爺さんごと地面を割り、奥深くまで潜り込んでいた。
その先にいる爺さんはもう生きてはいないだろう。
地響きから遅れて、きらりと緑色に光る石が落ちてくる。
石に結ばれた紐が、竜の牙に絡んだ。
竜は目を細めて、ぶら下がった石を見つめ、慈しむように瞼を閉じた。




