37 【正規ルート】特等席で観戦してろ
「四天王バルケスを退けた力、見せてもらおうか」
飛散した土砂の中でフェグリムが言った。
「バルケスなんて知らんぞ」
「バカッ! グスタフの本名でしょ」
宙に浮いた土砂を、戦槌が薙ぎ払った。
空中で火花が散ったかと思うと、土砂が煌めき、刃へと変貌した。
鋭さは鍛造された刃のようだ。
オレは後方に飛び退きながら、障壁を発動させる。
切っ先が連続して刺さり、裂け目を生じさせる。
障壁が砕けた。
「マジか」
想定を超えた攻撃力だ。真理の剣で残りの刃を弾き飛ばした。
フェグリムの放つ闘気がオレの肉体を押し切ろうと作用する。
着地した体が圧力にさらされる。
オレは足を踏ん張りながら両腕に魔力を収束させた。
守勢に回ると押し切られる。反撃して攻守を逆転させる。
剣を振り抜いた。
刃から鞭の如く魔力が射出される。
フェグリムが戦鎚を叩きつけた。
ぶわっと空気を舞上げ、砂嵐が魔力を飲み込んだ。
戦鎚が攻防の要だ。使わせない。手数で押し切る。
オレは補助魔法で身体の速度を上昇させた。
距離を詰め、カカン、と剣を二度槌に打ち込む。
「む」
フェグリムは連続攻撃に小さくうなった。
重ねて加速する。
ジュリアンの肉体での限界速度だ。フェグリムには追いつけないはずだ。
切っ先がフェグリムの頬を裂いた瞬間、分厚い透明の障壁が出現した。
初めてフェグリムが防御に意識を割いた。
前方に注意を払えば、他方向からの警戒は甘くなる。
「がら空きだ!」
側頭部に雷撃を与える。
オレは吹き飛ぶフェグリムに雷槍で追撃する。
「おおおおお!!」
フェグリムが雄たけびを上げた。
広場を轟かすほどの怒号が空気を揺るがした。
軌道が逸れ着弾した雷槍が、壁や天井を削り、地鳴りを呼び起こした。
吹き荒れる土煙の中、フェグリムの姿を探ろうとすると、衝撃で空気が震えた。
戦槌が空間を裂く。
投擲での反撃だ。
重量と勢いの脅威はある。だが、主から離れれば鉄塊だ。対処できる。
そう判断した矢先、影が飛び出した。
フェグリムだ。
戦槌の軌道を辿って、弾丸のように膝を抱えたフェグリムが体を開く。戦槌に追いつき、空中で握りしめる。
投擲したのは、破れかぶれではなく、活路を切り開くためか。
避ける?
いや、ジュリアンの反射速度では直撃する。
障壁で防ぎきれるか?
無傷ではいられない。
剣を頭上で構え、障壁に柔軟性を与え緩衝材にして衝撃に備える。
ミシッ、と衝撃が剣を通して伝わり、全身の骨がきしむ。頭に戦槌の重量がのしかかる。勝負所と判断したのか、フェグリムの筋力と魔力が上乗せされている。
これがお前の強さかよ、納得の強さだ。
だが、オレはこんなものじゃない。リリアに貰った剣と、サラと繋がる糸があるんだからな。
真理の剣よ、まだまだ物足りないぞ。もっともっと、オレに噛みついて引き出してみろ。食らいついて放すな、限界までイズルの力を引き出せ。
「イズルっ!」
リュシエル、どうしたその情けない顔は。お前は見届け人だろ。
特等席で観戦してろ。お前の望む結果にはならないがな。
オレは天使をぶった切った男だぞ。
戦槌の衝撃が脳天からこめかみ、頬へと広がった。
「これが勇者の力か。なるほど、これなら……」
軌道を逸れた戦槌が、頬をかすめた。顎から跳ねた血の滴が、虚空に散った。
剣に軽さが戻る。
ピュン、と剣が鞘に戻った。
戦槌が落ち、地面に柄を横たえた。
「お前ほどの強者に敗れるのならば、それも本望だ」
フェグリムが力なく膝をつく。傷は体の奥深くまで到達している。
「お前が目指した到達点には、オレが行ってやる。あの世で安心して見てろ」
「期待はずれで終わらせてくれるなよ」
笑みを浮かべてフェグリムは崩れ、体を地に横たえた。
その瞬間だった。
里全体が地響きに包まれた。




