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悪役令息に転生したオレは、勇者のために死ぬべきか~処刑前夜から始める異世界脱獄物語~  作者: 未玖乃尚
第五章 改変ルート

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36 【正規ルート】修正力のルール

 ドグルドの案内に従い、里に着くと、オレたちは洞窟の奥へと入った。

 入り組んだ狭い坑道を抜け、大広間に出た。ドーム状の天井に、集会でも開けそうなほどの空間が広がる。

 中央に影があった。ドグルドの足が止まる。


「フェグリム……」

 ドグルドが吐き捨てるように言った。


 他には誰もいない。

 一人のドワーフが鎮座していた。胡坐をかいて腕組みをしたドワーフが、名前を呼ばれて目を開く。


 頑強なドグルドよりも盛り上がった肩と僧帽筋。傍らに置かれているのはつちだった。

 直方体の金属に柄がついた、重厚感のある槌だった。

 これだけの体つきなら、軽々と振り回しそうだ。


「来たか、勇者よ」

 ドワーフが槌を掴んで立ち上がった。

「人払いは済ませてある。存分にやりあおうぞ」


「約束が違う。竜王城で勇者を待つと言っていたではないか」

「すまんな、待ちきれなかったのでな。心配せずとも、里の者には手を出していない」

 ドグルドは唇を引き絞り、オレを振り返った。


「ヤツこそ、竜王軍の四天王フェグリム。ワシらドワーフの裏切り者で、兄リグルドを竜王に差し出した張本人だ」

「厄介そうなヤツだな」


 フェグリムは皮の甲冑で身を固めている。はちきれんばかりの筋肉が鎧の下で蠢く。

「リグルドには竜麟の剣を完成して貰わねばならん」

 ひょい、とフェグリムは戦槌を肩に担ぐ。


「全ての生物を超越した竜王の姿を是非とも、この目に焼き付けたい。強さを極めた者の到達点、最終的な俺の目標でもある。いずれはそこに俺も辿りついてみせる」

「そんなことのためにワシらを裏切ったのか。竜王はいずれ技術を狙って、この里をも支配下に置こうとするぞ。そのような事態を想定していたからこそ、魔族とも人間とも距離を保ってきたというのに」


「求道者のたぎる激情、常人には理解されぬものだ。リグルドとて同じよ、あやつも伝説の剣と並ぶ、いやそれを超える最強の剣を、と乞われれば、竜王の剣であろうと、竜の命を代償とした素材であろうと、喜んで鍛え上げる。竜麟の剣の完成も間近だ」

「そんなことあるはずが、いや、しかし」


「ドグルド、貴様にはないのか。己の目指す道に人生を捧げたならば、頂きからの光景を眺めてみたい、そんな欲求すら否定するのか」

「ワシは……」

 ドグルドは言い淀む。


 フェグリムの言葉に共感する部分もあったのかもしれない。

 ドグルドが売った剣には、魂を捧げた者のみが到達できる凄みがあった。 


「頂きを求めぬならば、それでいい。山のふもとで幸福を追い求めるのもまた人生」

「お前は欲望のために里を犠牲にした。それを許すわけにはいかん!」

「もういい、おっさん、どいてろ」

 オレはドグルドの肩を掴んで、後方に押しのけた。


「要するにこいつは、湧きあがる衝動を抑えられないんだ。何を言っても同じだ」

「ほう?」

 フェグリムは興味深そうにオレを下から覗く。


「分かるぞ。オレも前世で女の子のために戦うとよく誤解されたもんだ。やれ、女好きだ、女たらしだってな。オレはただ道を究めようとしていただけなのに」

「誤解なの、それ?」

 リュシエルが半目になって蔑むように言う。

 ほら、軽蔑してやがる。


「求道者というものは孤独なのだ」

 フェグリムの言葉にオレはうんうんと頷いた。よく分かるぞ、四天王のドワーフよ。


「女もまた一つの道というわけか。だが、戦いには必要ない。邪魔なだけだ」

「男はいらんが、女はいる。それがオレの強さの源だ」

 オレは剣を抜いた。フェグリムの笑みが深くなる。


 リリアに貰った真理の剣が、オレの命を支えている。

 そして……


 フェグリムが戦槌を構えた。

 一筋の光が弾けたように揺れる。

 サラと繋がった糸が、オレの希望を支える。


「理屈じゃなく強さが全てというお前の考えは分かりやすい」

「勇者よ、貴様は世界の平和ではなく、女のために戦うというのか。ずいぶん世俗的だな」

「女のためっていうのは言い方が悪いな。そうだな、両手に抱えきれないほどの愛のためってとこか」


「おえっ」

 隣でリュシエルがえずく。

「あんまり変わらないってば」


「え、そうかな、愛の戦士ってかっこよくね?」

「お、おう。あんたが良かればいいんじゃないの?」

「とりあえず、言い方はどうでもいい」


 オレは現実に戻ってイズルとして生きる。華やかな女性に囲まれた毎日が待ってる。

 こんな男だらけのむさ苦しい世界とは早くおさばらしたい。

 その障壁としてこいつがいるならば、乗り越えるだけだ。


「なぜだろうな、貴様は生きていてはならん。そんな気がする」

 空気が咆哮するように、波を打った。

 フェグリムが呼吸を整え、精神を統一させることで、魔力の波動が増幅される。


「オレが命を賭した戦いを望んでいるからか」

 勇者と戦いたい。その欲求がヤツを、この戦いへと駆り立てた。

「それだけなら、戦う理由としては単純でいいんだけどな」

 オレはフェグリムの衝動は強さへの渇望だけではないと睨んでいた。


 ヤツに敗れることは死を意味する。つまり、勇者にとっては死亡に繋がるイベントだ。

 真理の剣入手が竜王の襲撃を招き、ドグルドの依頼を誘発した。そしてフェグリムは勇者との戦いを望む。

 オレは真理の剣を入手することで、勇者ルートに組み込まれたのだと確信した。


 修正力は、勇者ルートの死亡フラグを利用して、悪役令息を殺そうとしている。

 ジュリアンは本来なら、この時点でこの世に存在していない。

 グスタフが死んだことで、悪役令息のオレに、消化すべき死亡フラグを負わせる担い手がいなくなり、枯渇状態だ。


 既存の展開を利用してオレを殺せば、物語に無理な変更を加えなくても、勇者エミルが竜王を倒すという筋書きは保たれる。

 新しくイベントを作れば、物語の整合性に影響を与え、どこから崩れるか予測不能になる。


 だとすると、修正力の作用の仕方にもルールがあると言える。

 四天王のように、すでに配置した駒を利用するのが手っ取り早いってことだ。


 ならば修正力は無茶な変更を加えられないだろう。イレギュラーがあれば適宜対処する。


「笑ってる余裕があるのか!」

 フェグリムが戦槌を振り下ろした。

 重苦しい空気の圧が、突風となってオレの体を突き抜けた。

 鼻先を駆けた戦槌が足元を穿った。土砂が跳ね上がる。


「余裕? 勘違いするな」

 修正力の働きかけが、剣入手から明らかに変化したことに歓喜しただけだ。

 オレは答えに近づいている。

 竜王を倒して、世界の筋書きを変えてやる。


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