32 幕間 リュシエルの独り言2
目が冴えていた。
竜王との戦闘直後だ。
イズルも疲れたんだろう。村長の家の一室で豪快にイビキを響かせている。
そういえば、この世界で枕は初めてだ。
私はイズルの耳元に座った。
「あんたは、どこまで知ってるの?」
きっともう、勇者物語であることを理解しているんでしょうね。
ベッドには真理の剣が立てかけられている。
勇者が持つべき、真実を暴く剣だ。
グスタフの正体を暴いただけじゃない。
夜空の亀裂。
最初は気付かなかった。
真理の剣は、筋書きの歪みまで亀裂として可視化してしまった。
まさか、この剣がイズルに渡るなんて……
勇者物語の筋書きが狂わされてしまっている。
作中最弱の登場人物が、ここまで物語に影響を及ぼすとは。
まだ戻せる余地はある。
ジュリアン・エルミオンは物語の登場人物だ。物語の影響力から完全に逃れることはできない。
物語は折り返し地点、勇者パーティーはイズルに脅威を感じてる。
イズルが死ぬか、最悪でも彼らが先に竜王を討伐すれば、筋は保たれる。
私には手出しできない。物語外の私が干渉すれば、筋書きは破綻してしまう。
それだけ?
イズルの頬に触れる。
これはジュリアンだ。イズルじゃない。
「本当のあんたは、どれくらい小憎らしい顔してんのよ」
私は、イズルがこの世界で死ななければならないと考えている。
見届ける覚悟も持ってる。最初からずっと変わらない……
「でもね」
私は握りこぶしを胸の前に置く。
いったい、私はどう想ってる?
理屈では、死ぬべきだと理解してる。
私の心は、どう想ってるんだろう?
「まったく」
丘の上で、二人で食べたご馳走を思い出す。
「あれくらいで、私を餌付けたつもりになってんじゃねーぞ」
ピンとイズルの鼻を手の先で弾いた。
くすぐったそうにイズルは鼻を蠢かす。
月明りが、雲に隠れた。




