28 勇者パーティーは三人
竜王の気配が消え、静けさが戻った。
キュロはエミルに回復魔法をかける。
それでもまだ足元の覚束ないエミルの腕を首に巻き付け、一歩踏み出した。
「どういうつもりだ!」
キュロが叫んだ。
「君のせいでエミルが危険な目に合った。一歩間違えると死ぬところだったんだぞ」
よほど興奮しているのか、丁寧な言葉遣いが消えてる。
竜王戦でエミルが参戦することは計算に入れていた。勇者物語の主人公は、必ず争いごとに首を突っ込む。だからこそ、一対多数の戦いを想定して、時間稼ぎを選択した。
オレが原因なのは確かだろうが、真理の剣入手が竜王登場を誘発させたのなら、本来の物語でも、剣を入手したエミルがこの場面でケガをしたはずだ。場合によっては、もっと深手を負っていたかもしれない。
「キュロ、ジュリアンのせいじゃないよ。悪いのは、村を襲った竜王だ」
「と、言ってるが?」
「結果としてエミルは、君を助けてこうなってる!」
キュロが声を荒げる。
「ああ、結果的にオレが悪いと、そういうことか」
「当然だろう」
「つまり魔物が村に攻めてきたから、勇者が撃退しようとしてケガをした。竜王に襲われたオレが悪いと」
オレはキュロの脇を通り抜け、意識が戻りかけているゴードンの頬を、気付け代わりに叩く。
ゴードンは薄く目を開けるが、まだ意識が朧気のようだ。
「お前はそうやって勇者がケガをするたびに、大騒ぎするのか?」
ゴードンの巨体を背負った。重い。筋力不足を実感する。
勇者への固執は視野を狭め、判断にも影響を与える可能性もある。
きっと、そんな言葉はキュロには届かないし、オレも伝えるつもりはない。
死と隣り合わせのオレには、自分の命を守ることで精いっぱいだ。
「いい方法を教えてやる。勇者に旅をさせるな、部屋の奥に押し込めとけ。そうすれば、オレが代わりに竜王をぶちのめしてきてやる」
それもいいな。竜王に上から目線で好き勝手やられたから、気分も悪い。
あの余裕たっぷりの面を焦りに歪ませてやると、さぞ気持ちいいだろう。
「お前に竜王を倒せるものか。竜王を倒せるのは勇者だけだ」
「勇者、勇者ってそればっかりだな」
オレはゴードンの足を引きずって、前に進む。
「こいつを忘れてないか。勇者パーティーは三人だろ。オレはいつまでも、こんなでかいヤツを背負うのはごめんなんだがな」
「そうだ、キュロ。僕よりまずはゴードンだ」
「分かってます。今すぐに」
キュロが追いつき、ゴードンに回復魔法を施す。
リュシエルが耳元で囁いた。
「イズル、言ってたもんね。このパーティーは勇者を引き立てるために存在してるって」
「ああ」
「残念だけど、人は簡単には変わらないよ。ましてや、これは……」
リュシエルが口を噤んだ。
言わなくても分かる。
勇者物語は、勇者がいるから成り立つ。勇者が最優先で、オレも含めて他は全て駒だ。
さあ、修正力は、乱れた筋を駒を使ってどのように立て直すつもりだ?
オレはむざむざと死んでやらんぞ。




