26 正規ルートの死亡イベント
丘の緑が削げ落ち、岩盤が抉れて露出している。
倒れた木々が焦げ、小さな火種が暗闇を赤く灯した。
「貴様か。昼間、余に干渉したのは」
「何のことだか分かんねえな」
「答えよ!」
竜王に魔力が収束する。
「わわ」
オレは慌てて丘から転げて身を隠す。
背中で爆風が吹き荒れる。
「これはちょっとまずくないか。ジュリアンだと、少しレベルが上がったくらいじゃ太刀打ちできんぞ」
「私は忠告したよね。その剣はイズルのものじゃないって。その剣は勇者が得るはずだった」
リュシエルが声を低くして告げる。
「いいのか、筋書きを話しても」
「もう過ぎた筋書きだもん」
「それもルールか」
未来の筋書きは話さない。過去の筋書きは話せるということか。
「私は中立。イズルに利する情報は与えないけど、終わったことくらいは補足してあげる」
「お優しいことだな」
「そうでもないよ。せっかくあの時忠告してあげたのに無視するから、ざまあって言いたいだけ」
「確認だ。これは剣を入手したから起きたイベントか」
「さあ、ね」
現在進行のイベントには黙秘を貫くというわけだ。
リュシエルの表情に、筋書きが乱れたときのような焦りはない。
剣の入手が、竜王の登場を誘発したってことか。
つまり正規ルート。しかも勇者の命を危険にさらすほどのイベントだ。
修正力のいやらしさを感じるのは、オレのレベルが竜王の力に到底釣り合っていない点だ。本筋の勇者なら仲間もいるし、レベルももう少し高そうなものだが。
たかだかレベル15のオレには、竜王を相手するのは絶望的だった。
正面からぶつかれば瞬殺される。
「やってくれたな」
誰に言うわけでもない。だが確かに存在する何かに語りかける。
足元に魔法陣が浮かび光を発した。
索敵魔法だ。居場所がバレる。
「そこか」
眼前に現れた竜王が戦斧を振り下ろした。
鈍い音をさせて、真理の剣が弾く。
竜王の斧にもひけを取らない。さすがリリアの剣だ。
「やはり真理の剣か、昼間の気配は……」
「剣が気になって、わざわざここに来たのか、心配性だな、竜王ってのは」
「敵の戦力を調査するのは基本だ」
「理解できてるか? お前も今、オレに情報を与えているぞ」
「レベル15風情で、覆せるものではあるまい」
「そうだな、ただのレベル15じゃ、お前に歯が立たないな」
オレには前世から保持している能力がある。
お前はそれを知らない。
特別サービスだ。
情報として持ってけ。
オレの能力は魔法の構築だ。
組み上げた魔法構造が複雑なほど、消費される魔力も膨大になる。
この魔法は現在のジュリアンでは、一撃が限度だ。
「例えば、こんなのはどうだ?」
右腕に魔力を纏う。魔力が唸りを上げ、火花を散らす。空気に噛みつくように揺らいだ。赤黄色に変貌し、螺旋を描きながら、手首の位置で上下に裂ける。
牙を晒して威嚇する猛獣の形を作り上げると、竜王に向かって射出した。
竜王の固有魔法、火竜だ。
「お前の言う通り、情報は大切だ。オレは既にお前の情報を得ていた」
リリアの試練でな。
「なぜ、お前がそれを使う!」
目が驚愕に見開かれる。初めての動揺だ。
竜王は腕を交差させて防御姿勢に入る。
火竜が腕ごと噛みついた。首を振って竜王を顎ごと叩きつける。
跳ね上がった土砂の中で、竜王の眼光がオレを射抜く。
「これで終わりか」
オレはたかだかレベル15だ。多少意表を突いたところで、竜王の装甲は破れない。
「まさか」
火竜を自爆させた。
爆風を利用して、距離を置く。
何とか間に合ったか。
読みが外れれば、また別の方法を考えねばならないところだった。
オレの隣で、三人分の影が伸びた。
一対一で戦う必要はない。
勇者が世界の脅威に立ち向かう物語の定番といえば。
大剣、杖、そして……
「ラスボスには、複数で総攻撃が定番だろ」
火竜は、単なる時間稼ぎだ。勇者は脅威を無視できない。
勇者エミルが剣を抜いた。
「これが竜王……世界の敵か」
エミルが左手の剣を竜王に突き出し、腰を落とす。
右手には破邪の剣があった。
二刀流の勇者が、竜王に対峙する。




