23 《勇者》巫女の視線
真理の剣さえあれば、真贋の目でグスタフの正体を見破った直後に正体を暴けた。
補完関係にあるからこそ、いずれ真理の剣を手に入れられる。そのような傲慢な思いがあったのだろうか。
いや、大事なのは結果だ。彼が村を救ったのならそれでいい。
エミルはそう納得してキュロの肩を叩こうとし、彼の言葉に手を止めた。
「ジュリアンをこのままにしておいて、いいのでしょうか」
「キュロ、そういう言い方はやめよう。結果的に世界が救われるなら、僕じゃなくたっていいんだよ」
「大丈夫だ、キュロ。最終的に竜王を打ち倒すのは、我ら勇者パーティーだ!」
間に入ったゴードンが二人の首を抱え込み、体を揺らした。
首が締まってキュロがせき込む。エミルは苦笑いを浮かべた。
ゴードンは広場の輪に向かって、太い腕を突き上げた。
「おーい、ジュリアン殿!」
かつて、悪役令息と蔑まれた青年が振り返る。
「げ、お前らかよ」
呼ばれて近づいてくると、エミルを指差した。
「えっと、勇者と、戦士と魔法使いだ!」
自信満々に言う。彼は名前を覚えるのが苦手らしい。
「だから、私は賢者ですって」
キュロが即座に否定する。
「あいかわらずだな、お主は。我はゴードン、こっちが勇者エミルで、賢者キュロだ。そろそろ名前くらい覚えろ」
「そう、それ!」
「君が、この村を救ったのかい?」
「そうだ、この剣でな。羨ましいだろ」
彼の間近に真理の剣があった。エミルが装備する鎧と同じ輝きだ。
「はは、そうだね。でも僕には破邪の剣があるからね」
「オレは昨日までちまちまナイフ振り回してたからな。この剣で、お前らのレベルを抜いてやるからな」
「ジュリアン殿、そう簡単に我らには追いつけんぞ。レベルが上がりやすいのは最初だけだ」
がははとゴードンが笑う。
「ジュリアンさん、その剣はどのようにして手に入れたんです?」
探るようにキュロが尋ねた。
「ああ、リリアに貰った」
「リリアさん?」
エミルが聞き返すと、茶色の髪をした少女が前に進み出て頭を下げる。
釣られてエミルも挨拶する。
顔を上げた彼女と視線がぶつかった。真贋の目は、彼女こそが剣の守護者、巫女であると告げていた。
同時にエミルは悪寒を感じた。瞳を通じて、奥を探られるような居心地の悪さだった。
巫女ならば、真贋の目でも届かない深淵まで覗き込むことができるのかもしれない。
比べられてる。なぜだか、そんな気がした。
やめてくれ、と言いたくなった。こんな暗い感情を持つのは何年ぶりだろう。
君は一体どんな答えを出す?
震える唇を噛みしめ、話しかけようとすると、ニコリとリリアが微笑んだ。
「あなたもとても、お強いですね」
「え……」
エミルは緊張ですぐに言葉を出すことができなかった。
少女に気圧されていたのだと、今さら気づいた。
「そうであろう」
代わりにゴードンが胸を張る。
「エミルは竜王を倒す勇者だからな!」
「そうですね、きっとエミル様なら可能だと思います」
リリアは手を打ち鳴らした。
「イズル様も負けないでくださいね」
イズル……
エミルは、ジュリアンが初対面でそのように名乗ったことを思い出した。
「私の剣はあなたに託したのですから」
「まずは、腹ごしらえしてからだな」
「任せてください、今準備してますので。よろしければ、エミル様たちもどうぞ」
リリアは会釈すると、村の奥へと走っていった
エミルはそんな彼女の背中が小さくなるまで見送っていた。
自然と肩の力が抜けていた。
「遠慮すんな。昨日、昼飯貰ったからな。好きなだけ食ってけ」
「すまんなジュリアン殿。というか、お主の準備した食材ではないであろう」
「金は出すぞ、何と言ってもオレは当主がいなくなった家の跡取り息子だからな。今夜は祝勝会だ、費用は全てオレの実家の金庫から出す」
「悪役令息のセリフ、そのままですね」




