22 《勇者》真贋の目と真理の剣
村に着くと、勇者エミルは慌ただしく馬を下りた。
「遅くなったな。まさか屋敷内の人間まで、魔物が化けていたとは」
戦士ゴードンが焦りを滲ませながらエミルに続く。
エミルは真贋の目で、当主グスタフ・エルミオンの正体が魔物だと看破した。彼だけではなかった。屋敷内や騎士団には、数多くの魔物が紛れ込んでいた。
真贋の目には欠陥があった。
勇者には嘘も幻覚も、変装や変身といった類いも通用しない。
だが、それは勇者に対してだけだ。いくら周囲の人間に真実を示そうとしたところで、納得させるのは難しい。
エミルは人々を説得するために、立証しなければならなかった。
証拠を固め切るより早く、グスタフが動いた。
隣村を襲撃したのだ。
幸いなことに街には勇者の協力者がいる。彼らの力を借りて魔物を排除し、どうにか街の安全は確保できた。
勇者一行はすぐさまグスタフを追った。
「仕方ありません。街の人々に危害が及ぶ可能性もありましたから」
馬の扱いに慣れていない賢者キュロが、やや遅れて村に到着した。
「急ごう」
エミルの呼びかけに、二人が頷く。
村には焦げた臭いが漂っていた。
グスタフが襲撃した名残だ。
エミルを先頭に、勇者たちは慎重に進んだ。被害は一部に留まり、全焼した建物はなさそうだった。
「間に合った、のか?」
エミルが呟く。
グスタフは軍を率いていた。
街での対応に時間を割かれ、出発が遅れたことから、彼は村が凄惨な状態になっていることを覚悟していた。
村の中央広場付近まで来ると、人の騒めきが聞こえてきた。
エミルが足を止めた。騎士と村人が輪を作り、談笑していた。
村に攻め込んだ加害者と被害者にはとうてい見えない。
「おい、あれ」
ゴードンに言われるまでもなく、エミルの視線は輪の中心にいる人物に引き寄せられていた。
キュロが喉を鳴らす。
「ジュリアン・エルミオン……」
掠れた声でキュロが言った。
「レベル15……」
真贋の目は、ジュリアン・エルミオンをそのように鑑定した。
「15だって?」
ゴードンが聞き返す。
「おいおい、冗談だろ、昨日はレベル3のヒヨッコだったんだぞ」
「いえ、デーモンとの戦いでレベル7まで上がってましたよ」
キュロが訂正する。
「それにしたって、一日で7から15って、レベルが上がりやすい特殊体質でもあるのか」
「いや」
エミルが否定する。そのような体質など存在しない。
関連があるとするなら、肉体だ。
健康だったり、栄養状態がよければレベルが上がりやすいし、逆なら上がりにくい。
彼の肉体は、投獄の影響からか明らかに痩せすぎで状態は悪かった。
「どちらかと言えばジュリアンは、レベル上昇に制限がかかっているはずだよ」
「だったらどうしてなんだ、エミル」
ゴードンが結論を促す。
「例えば、よほどの強敵を倒してきた、とか」
彼の腰には異彩を放つ、白銀の剣があった。昨日の時点では所持していなかったものだ。
「真理の剣……」
真贋の目で見極める。エミルが所持する破邪の剣と同レベル、つまり伝説級の武器だ。
「あれが、真実を暴き、所有者に最適化する剣、ですか」
「ほんとに存在したのかよ」
「そのよう、だね」
こんな辺鄙な村に隠されていたとは。
エミルは驚くとともに、グスタフは村に真理の剣があると睨んで、ヤリスの街に拠点を構えたのかもしれないと推察した。
グスタフはいずれ、真理の剣を奪うつもりだった。
どうやらその目論見も失敗に終わったようだ。
「私は勝手に、真贋の目と真理の剣は導き合うものだと思っていました」
キュロの言葉はエミルの考えを代弁していた。




