21 剣が曝け出す真実の姿
「レベル、12」
リュシエルが呟いた。
精神世界での戦闘経験がレベル上昇に寄与したようだ。
数秒後の世界に戻ってきた。
オレの手には真理の剣がある。
騎士たちが動き出す。
グスタフの視線が真理の剣に据えられた。
眼球がグスタフの瞼を押し上げる。
牙が光った。
「殺せ! 今すぐジュリアンを殺せ、その娘もだ」
指令が下された。
させるかよ。
「控えろ!」
オレは即座に命令する。
「指示に従わない場合、反逆行為とみなす」
オレの言葉に騎士たちは動きを止めた。
混乱しているようで顔を見合わせる。
息子で、死刑囚のジュリアンが、当主グスタフと真逆の命令をした。
真意をはかりたくもなるだろう。
「何をしておる!」
黙ってろ。
オレは地を蹴り、グスタフの頭上に剣を振り下ろした。
火花が弾け、金属音が響く。
剣気が放射状に広がった。
「ぬうっ!」
腹の底から捻りだした呻きが重く響く。グスタフは大剣でオレの攻撃を受け止めていた。
風が吹きすさぶ。
オレの髪を跳ね上げたのは、風か、それとも剣が持つ圧力なのか。
重なり合った互いの刃を起点にして、光がグスタフの体を走る。その額から頬にかけて鱗が出現した。
顎が前方に向かって伸び、緑色に変色した。光が足元に向かって流れる。尾が甲冑から飛び出した。
馬上にさらされたのは、人間の姿をしたトカゲだった。
グスタフだけではなかった。
騎士に紛れ込んだ魔物たちも、真理の剣によって、真実の姿を曝け出された。
リリアの隣に着地すると、オレは剣を突き上げた。
「父は魔物に殺害された。オレは冤罪だ」
騎士の間でどよめきが渦巻いた。事態の急変に対応できずに茫然とする騎士たちも、魔物を目の当たりにしては対応せざるを得ないだろう。
続けて命令を下す。
「ここは我らの領土だ。魔物どもから村を守れ!」
ついでに近くにいた騎士の首根っこを捕まえる。
「リリアと女子供を最優先で守れよ。そうすれば、これまでの行為を見逃してやる」
グスタフの命令とはいえ、リリアを磔台で殺そうとしたんだ。
本来なら許さないところだ。
オレはグスタフに切っ先を向ける。
「トカゲ野郎。お前は許さんぞ。オレに罪を押し付けたどころか、リリアまで」
「まさか、我が息子が真理の剣の主になるとはな。娘の腹を引き裂く手間が省けたわ」
指が飛んだ。
緑色の血が噴き出し、グスタフが悲鳴を上げた。
「あらら、引き裂く指がなくなったな」
「貴様!」
傷口を押さえてグスタフが目を剥き出しにした。
「オレがいなければ、今頃リリアは死んでいた……」
オレに罪を被せたことだとか、断頭台に送ろうとしたことなどと、もはやどうでもいい。
リリアをいたぶって殺そうしたんだ。報いを受けさせる。
「オレがいなければ、だと? その通りだ、ジュリアン、お前は今からいなくなり、その巫女は死ぬ。結果は変わらん」
先が二つに割れた群青色の舌を、指の傷口に絡ませ、グスタフが喉の奥を鳴らす。
土煙を立てて、グスタフが馬から降りた。
尾を地面に叩きつける。
響き渡った音に身を強張らせ、リリアがオレを見上げた。
「イズル様……」
不安そうなリリアの頭に軽く手をのせた。
「自信を持て。お前が命がけで守り抜いた剣と、これを扱うオレを信じろ」
「はい……」
リリアは両手でオレの手を包んで答えた。
「剣は私の一部。あなただからこそ、私は託しました」
「それでいい」
剣が手に馴染む。オレに最適化し、能力を引き出す、とリリアは言っていた。
苦労して自分の物にしたんだ。
「剣の性能を確かめられる程度には、楽しませてくれよ」
「それ、悪役のセリフでしょ」
耳元でリュシエルが言う。
「筋を乱すあんたには、ふさわしいのかもね」
声には諦めの色が混じっていた。
「だろ?」
勇者のために存在する物語において、オレは悪役でしかないだろう。
正義は勇者に任せる。オレは死に抗い、周囲の女の子の為に戦う。
そのために剣の試運転は必要だ。
「ようやく剣の在り処を突き止めた。竜王様もワシを認めてくださる」
グスタフが地面に這わせていた尾を、跳ね上げた。
「これからは竜王軍四天王のバルケスとして、全力で貴様を殺す」
「今ごろ本名を名乗っても、どうせお前の名前なんて誰も覚えないぞ。死ぬだけだからな」
「貴様の屍を晒せば、嫌でもこの名は刻まれるだろう?」
尾のバネを利用してグスタフが飛び出した。
重い大剣を受け止めた。真の姿を曝け出したグスタフの斬撃は、人間離れした力強さがあった。
膝が沈む。ひ弱なジュリアンの体では不利だ。
それでも耐えられているのは、レベル上昇と、潜在能力を引き出す剣の効果だろう。
「どうした。受けるだけで精一杯か」
影が走る。グスタフの尾がオレの脇腹を殴りつける。
歯茎を剥き出しにしてグスタフが笑おうとし、硬直した。
「なるほど、だてに剣に選ばれたわけではないということか」
オレは防御障壁を展開し攻撃を防いでいた。
魔法の構築から発動まで、感覚のズレはかなり減少している。ジュリアンの肉体が、オレの意識に追いつけない現状を剣が最適化したことで、補ったということか。
攻撃面はどうだ?
鍔迫り合いをする剣に魔力を流し込む。
周囲から届く騎士たちの剣戟の音が遠ざかった。
グスタフは眉間に皺を寄せ、足を踏み込み、大剣に体重をかけようとする。
大剣を弾き返した。よろめき、がら空きになったグスタフの腹部に魔力弾を打ち込む。
「その軟弱な体で、なぜ反撃できる」
腹を押さえるグスタフの指から、緑色の液体が零れた。
魔力弾が腹部を貫通していた。
「この剣がオレの力を引き出しているのだ。ふははは、礼を言うぞ。オレがこんな便利な剣を手に入れられたのは、お前のバカな行動のおかげだからな」
「それ完全に悪役のセリフだけど」
リュシエルが口を挟む。見せ場を邪魔するんじゃない。
「ええい、引っ込んでいろ。オレはこいつに処刑されかけた上に、刺客までけしかけられたんだぞ」
腕を払って、ブンブン飛び回るリュシエルを追い払う。
「きっちり仕返しさせてもらうぞ。もちろんリリアの分もだ」
「……もっと早く、貴様を処刑しておくべきだった」
グスタフ喉の底からヒューヒューと掠れた息を吐きながら言った。
「貴様には何かがある……肉体がその何かに追いつけば、あるいは竜王様にさえ、届きうる。お前さえ……いなければ!」
尾が伸びた。
鞭のようにしなり、放たれた。
尾はオレの体を回り込み、背後のリリアに向かって突き進む。
緑の血が飛散した。
切断された尾は地面に落ちると、バタバタと痙攣するように暴れた。
「終わりだ」
剣を鞘に納める。
グスタフの脳天から真下へと線が駆けた。
両断されたグスタフの体が、ボロボロと崩れ落ちていく。
「あと一歩だった……巫女さえ始末できていれば、こんなことには……」
次は魔物の残党を一掃するだけだ。
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