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悪役令息に転生したオレは、勇者のために死ぬべきか~それは処刑前夜に始まった。世界に殺されるなら、運命に抗い脱獄する――これがオレの物語だ~  作者: 未玖乃尚
第三章 真実を暴く剣があるらしい

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20 剣を捨てれば戻れる

 立ち込めた冷気に肌が逆立った。

 状況把握より先に、腰を落として身構えた。真理の剣を抜ける体勢を取った。


 他人の剣でも握ったような感覚だ。まるで馴染んでいない。

 まだオレの物になっていないということを如実に伝えていた。


 広間の先に、人影がある。玉座に座っているようだ。

 影は空気を揺るがせて立ち上がり、マントを翻す。

 オレは後方に飛びのいた。


「何だ、こいつ」

 グスタフともデーモンとも違う。

 比較対象になるものがなかった。

 レベル7のジュリアンでは、勝ち筋がない。


 風が、空間を裂いた。

 抜いた剣に衝撃が叩きつけられた。石畳に足が沈み込むほどだ。

 無詠唱で加速魔法を施し、影から距離を取ろうとした。


 瞬時に追いつかれた。

 頭上から刃が振り下ろされる。刀身を通じて斬撃が響く。

 防御に意識を削がれ、敵の正体を見極める余裕すらない。


 だったらどうする?

 敏捷性を上げても追いつかれる。攻撃力強化をしても、貧弱な体では効果に乏しい。防御力上昇も、じり貧だ。


 目先を変える。

 剣で凌ぎながら、魔法を構築した。魔力が上昇したことで、使える種類も増加した。


 まずは足元を崩す。

 地盤の石畳が崩壊し瓦礫となった。通路に開いた大穴に飛び込んだ。

 階下に落ちる最中、穴を見上げた。空中に留まる姿がある。


 竜、と見紛うほどの禍々しい尾が天井に向かって突き立っていた。尾に散らばる無数の棘が、鉛のように鈍く輝いた。


「あれが竜王よ」

 耳元でリュシエルが呟く。

「あいつに勝つのが試練ってか。無茶言うな」


 竜と言うよりは人に近い。尻尾がある大柄な男のようだった。得物はぎらつくほど禍々しい戦斧だ。鈍色の長髪を首に巻き付け、腕組みをして見下ろしている。首から顔にかけては鱗で覆われていた。


 固そうだな。黒光りする鱗は、並の剣では弾かれてしまうどころか、折れてしまいそうだ。

 弱点らしきものといえば、目くらいだが……

 目元付近への攻撃くらいなら、竜王は想定してそうだ。


「おい、リュシエル。あいつのうっとうしい髪の毛引っ張ってこい。その間に首飛ばすから」

 言いながらオレは、視界を塞ぐジュリアンの髪を払う。

 あー、うっとうしい。


「私は一切関わらないってば。忠告したのに、剣を受けたりするからこんなことになるのよ」

 しかめっ面するリュシエルの背後で、炎が迸る。

 火竜が牙を剥いてオレの腕に迫った。


「げげ」

 竜王の固有魔法か。

 面白いな、レベルが上がったらいずれ使ってみるか。

 まずは生き残れるかだ。


 全魔力を左手に集めて凝縮する。盾を作り出して弾き飛ばした。

 壁が爆音を上げて崩れ落ちる。

 爆風に体が舞った。体勢を整えて着地する。


「どうするつもりよ、魔力使い切って」

「どうもこうも、ああしないと死んでただろ」

 最善を選択しての結果なら問題ない。余力がないからこそ見える道筋もある。


 絶望を乗り越えるからこそ、以前の自分を乗り越えられるんだよ。

 剣を握り、乾いた唇を舐める。


 真理の剣は反応しない。

 オレを認めないならそれでいい。オレはお前をあいつに叩き込んで、ここから抜け出すだけだ。


「怖くないの? 剣を捨てれば……戻れるよ」

 リュシエルが言った。


「それは、魅力的な提案だな。けどな……」

 絶望するのは初めてじゃない。前世のオレは天使に斬りつけたくらいだ。こんな状況、山ほど味わってる。


「オレが一番怖いのは、死ぬことよりも、自分の生き様を否定することだ」

 熱風が肌の水分を奪う。

 火竜が迫る。


「剣が認めないなら、従わせてやる。オレこそが主だとな」

 オレが力を引き出すか、剣ごとぶっ壊れるかだ。

「オレは大人しく死ぬ気はないぞ。あいつを斬り裂く覚悟がお前にあんのか!」


 逆らうならへし折ってやる。

 剣を振り下ろした。

 シュン、と音が遅れて駆け抜けた。

 軌道上に一筋の線が走り、空間がズレる。火竜が裂け、消失した。


「イズル。今あんたは明確に、越えてはいけないラインを越えたよ」

 筋書きに関わると沈黙するリュシエルが、初めて戒めを破った。


「覚悟の上だ」

 竜王のマントが切断され、空中を滑り落ちる。竜王は肩越しに、脇を抜けた剣筋の行方を追った。


 壁から天井まで裂け目が広がる。

 破裂音がして、大広間と同時に竜王が光の粒子と化した。


 亀裂から煌めきが溢れ、飛び出した。天地がひっくり返る。体が投げ出され、あらゆるものが崩壊していく。


 体が、全て失われた空間に漂う。上下の区別が付かなくなると、どこからかリリアの声が響いてきた。

「真理の剣は真実を明らかにする剣。あなたは見事に幻想を斬り裂いた」


 幻と戦っていた、ということか。

 オレはリリアに問いかけようとしたが、彼女の姿はなかった。

 白光に満ちた空間に彼女の声が響くだけだ。


「ただの幻想ではありません。あの竜王こそが、この世界にとっての敵、倒すべき相手です。あなたはその恐怖に屈しなかった。実際に対峙しても、あなたは怯まず戦えるはずです」

「真実を明らかにする、か」


 白銀の剣を一振りする。それだけで、直感的に理解した。

 真理の剣が、リリアの精神世界に作られた幻を砕き、現実へ引き戻そうとしているのだと。


「もう、その剣は、あなたの物です。今から現実に戻ります。儀式が開始された直後の世界です」

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