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悪役令息に転生したオレは、勇者のために死ぬべきか~それは処刑前夜に始まった。世界に殺されるなら、運命に抗い脱獄する――これがオレの物語だ~  作者: 未玖乃尚
第三章 真実を暴く剣があるらしい

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19 後戻りできなくなるよ

 空がなかった。

 地面もない。オレは白んだ空間に浮遊していた。


「どこだ、ここは?」

「リリアの意識下に取り込まれたようね」

 ぴよん、と羽根を動かし、リュシエルが肩に乗る。


「お前はどこにでもいるな」

「だって、私、観察者ですから」

 リュシエルは鼻を高くする。

 褒めてないんだが。


「何のためにリリアはオレをここに連れ込んだんだ? 数秒稼げと言われたから、そうしただけなんだが」

「しっ……」

 リュシエルが唇の前で人差し指を立てた。


「ここから先は話しかけないで。リリアでさえ、私を見ることはできないんだから」

 空間がうねり、渦巻いた。

 一点に凝縮し、弾けて飛ぶと、リリアが出現した。


「驚かれましたか? 無理もありませんね」

「そりゃ、こんな何もないところに連れてこられたらな」


 オレは辺りを見回した。

 リリアは目を凝らして怪訝そうに、オレの右肩を眺めた。

 勇者と似た反応だ。


 リュシエルの言葉通りなら、彼女は天使を視認できないはずだ。


「気のせい、でしょうか?」

「気のせいだろう、たぶん」

 リュシエルに視線をやろうとすると頬を叩かれた。あっち向いてろ、ということか。


「私は真理の剣を司る巫女です。あなたこそ剣の主として相応しいと判断しました。ここは巫女の固有結界内。思考が超加速し、現実世界ではほぼ時間は動いていません」


 リリアが手を水平に振った。空間に長方形が形成され、オレたちがいた現実世界が映し出された。

 オレも含めて全員が時間を奪われたように停止している。


「これより儀式を始めます。結界内の時間経過は、現実世界では数秒程度です」

 つまり儀式を終えて帰還するのは、リリアを磔台から解放した直後の時間帯。

 リュシエルの頬が引き締まった。


「唐突で申し訳ありません。イズル様の能力的には、やや時期尚早なのですが、この剣の試練を受ける気はおありですか?」

 ちょっと待て。

 何だその、お前ごときヒヨッコが私の剣を扱えるのか、というような問いかけは。


「そもそも、その試練とやらはオレに釣り合うものなのか?」

「えっ、と。そうですね、その答えは想定していませんでした」

 小首を傾げてリリアがはにかんだ。


「失敗すると死ぬ。とまでは言いませんが精神崩壊するかもしれません。勇気を試す試練なので」

「ちなみに、その剣はどこにあるんだ。そこまで煽るからには最強の剣なんだろうな」

 キョロキョロ首を巡らせるが、それらしいものは見当たらない。


「最強かどうかは、所持者によります。真理の剣は、主の能力に最適化し、潜在能力を引き出す剣ですから」

 リリアの胸元が青白い光を宿した。闇に灯った炎のように朧気な光は、揺らめきながら大きな輝きを放ち始めた。


 細い左右の指が、オレの右手に絡んだ。胸の膨らみに引き寄せられる。

 意識が、囚われた。

 光が明滅する。破裂と圧縮が繰り返され、小刻みに変動する。

 やがて急速に冷気を帯びて、光は剣の姿に凝縮した。


「さあ、剣を取ってください」

「イズル!」


 視界にリュシエルが入った。彼女の表情からは、余裕やからかう雰囲気が削げ落ちていた。

 リリアの視線はリュシエルがいる空間に注がれていた。目が、細められる。


「あんた、後戻りできなくなるよ。その剣はイズルのものじゃない……」

 ずい分、雄弁だな。

 筋書きを乱すからか。


 ジュリアンには死が義務付けられている。

 だったら筋書きに従っていても、いずれ死は確定する。


「勘違いするなよ」

 この命はオレのために存在している。

 勇者の踏み台にはならない。


「オレの人生はオレの物だ」

 柄を握りしめた。

 意識が上空に飛んだ。

 気付くと、オレは石造りの大広間にいた。

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