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悪役令息に転生したオレは、勇者のために死ぬべきか~世界が殺しに来るなら、運命に抗い脱獄する~  作者: 未玖乃尚
第三章 真実を暴く剣があるらしい

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17 《巫女》死を覚悟できる程度には

 グスタフ・エルミオンの瞳孔に封じられた漆黒は、リリアに異形性を感じさせるには十分であった。


 手足を拘束されたリリアが突き出される。

 グスタフは捕縛された村長から視線を映した。


 その瞬間、空気が変わった。見開かれた大きな瞳に囚われてしまったような、そんな圧迫感をリリアは感じた。


「そうか、お前か」

 グスタフが呟いた言葉が体を這い回るようだった。

 おぞましさに、リリアは背をのけぞらせる。


 降りかかるであろう未来を予見したわけではなかった。

 リリアは理解してしまった。


 自分がグスタフに人ならざる者を感じたと同時に、彼はリリアが『探し物』に関わる人物と見抜いたのだと。


「真理の剣を司どる巫女よ」

 その場が息を飲むほどの緊張感に包まれた。

 リリアと同じく座らされた村長や村民は、口を噤んだままだ。だが、表情から焦りや焦燥を隠しきることはできない。


「剣はどこにある?」

「何のことでしょう?」

 リリアは即答した。


 使命と向き合うことでリリアは強くなれた。

 巫女は勇者に剣を授けるために存在している。

 村人よりも、自分の命よりも、優先される。それが真理の剣だ。


「もう一度聞く。剣はどこだ?」

「あなたには決して手に入れることはできませんよ」

 はったりではなかった。


 事実として、グスタフが剣を入手することは不可能だ。

 巫女が認め、かつ剣を持つ器がある者のみが、真理の剣を手にする。


「あなたのような魔物ならば、なおさらです」

 周囲が騒めいた。


 グスタフの身辺警護をする騎士は微動だにせず沈黙を保っている。

 遠巻きの騎士たちの間で囁き声がする。

 その声をかき消すように、グスタフの笑い声が甲高く轟いた。


「魔族と通じているのは、お前たちではないか」

「どういうことでしょうか」


「調べはついているのだぞ。魔族交信の罪で処刑予定だったジュリアン・エルミオンが昨日、この村に立ち寄ったことはな。大規模魔法で数人を葬ったことも報告されている」

「彼は命を脅かされた私たちをお救いくださったのです」

「そんな報告は受けておらん」


 昨日……

 リリアは記憶を呼び起こす。


 立ち寄った一人の男性に命を救われたのは確かだ。

 グスタフの配下に襲われかかったところを、彼が命がけで守ってくれた。

 汚れてはいたが、服装から高貴の出だと推測できた。


 彼が馬上のグスタフ・エルミオンの息子で、悪役令息と名高い人物、ジュリアン・エルミオンなのだろうか。

 リリアは彼がイズル、と名乗っていたことに思いを馳せる。


 偽名の可能性もあるが、名前などささいなことであることに気付く。

 リリアは既に、彼に希望を見出したことを認めていた。


「ヤツを匿っているなら、この村も同罪だ。剣の管理もまかせておけんな。あれは魔族を討つ勇者のためのものだ」


「まだ、お分かりになっていないようですね。真理の剣は私が自由に渡せるといった類のものではないのです。私の心が動くかどうか、この方に使って頂きたい、そう思えるかどうかが全てです。申し訳ございませんが、あなたでは、私の心は微塵も動きません」


「魔族交信の罪人を匿い、あまつさえ、ワシの配下を口封じで殺した。国家に反逆の意志あり、とみなす」

「エルミオン様」

 跪いたまま、村長である祖父が叫んだ。


「村の責任は私にあります。どうか、私に罰を」

 正座による膝の痛みが限界に達しているのか、祖父の下半身が小刻みに震えている。

 ここは情を排すべき状況だ、リリアは自分を諭した。


 剣の保持を最優先するために、巫女としての命を守らなければならない。たとえ、祖父の死を目の当たりにすることになろうとも。


 リリアはそう覚悟したはずだった。


 磔台が準備されると、リリアの中で祖父との思い出が駆け巡った。

 父は村を守るために命を散らし、母は巫女を産み落とすことで体力を削がれ、やがて命を失った。


 祖父は甘やかしながらも、巫女として厳格に育ててくれた存在だった。

 ダメだ、と分かってはいても、感情が理性を押し潰してしまう。

 

 私は失敗作だったのだと、リリアは自嘲した。

 祖父の教えに逆らい使命よりも、個人の情を優先させてしまうのだから。


 昨日もそうだった。

 祖父を人質に取られた途端、心が崩れてしまった。

 命を盾に脅され、イズルを攻撃したときと同じだ。


 違うとすれば。

 リリアはグスタフを見上げた。

 自分が死を覚悟できる程度には強くなったことだ。


 イズルが傷を負いながらも、自分たちを守ってくれた。

 その姿がリリアの心を燃やした。


「剣は私の体内にあります。引き裂いて取り出してはいかがですか?」

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