16 予定調和にない
「よし、次の目的地はヤリスの街だ」
朝食を終わらせると早速出発することにした。
「今さら処刑されに戻るっての? イズル、それは悪手でしょ?」
リュシエルはオレが提案した逆方向を指で示す。森林があるだけで街は見えない。
「追手から逃げるならあっちよ」
「助言をくれるなんて珍しいな。オレに生きててほしくなったか」
「ば、ばか。そんなわけないじゃない。早く死んでほしいに決まってるでしょ」
「だったら、断頭台のあるヤリスの街へ戻るか」
ジュリアンの父親だか、魔物だか知らんがぶっ飛ばす。
追手だとか、デーモンだとかをけしかけておいて、自分は安全でいられると思うなよ。
こっちから出向いて、あいつをやっちまえば追手も来なくなる。
うん。名案だ。
「待って」
「何だよ」
「えっと……」
リュシエルが視線をさ迷わせる。
「わざわざ、ヤリスの街に戻らなくても、物語の修正力があるから、イベントで死ねるはずだよ?」
「人を死にたがりみたいに言うんじゃない」
行かせたくなさそうだ。これ以上筋書きを狂わせて欲しくないということか。
リュシエルは観察者として見守る立場だ。
介入したくてもできないだろう。余計に筋を乱しかねないからな。
できるのは誘導くらいだろうが、残念だな。
オレはあいつに一泡吹かせてやりたいんだ。
「お前、それで説得してるつもりか。どうせ死ぬなら、オレが断頭台で処刑されるのが、丸く収まるだろ」
仕返しして死ぬのと、しないで死ぬのではまるで違う。ならばオレは前者を選ぶ。
死ぬ気はないが、リュシエルの立場なら、オレが筋書きに近い形で死ぬ方が受け入れやすいだろう。
オレの言葉に、リュシエルの顔が光り輝く。
「それだ!」
満面の笑みで喜ぶ。
「うれしそうに言うな」
「いや、待てよ」
リュシエルが口元に手を当てる。
「既に時系列が狂ってるのに、そんなにうまくいくかな……」
「修正力がオレを殺して、辻褄を合わせてくれるだろ」
「それは私が言うべきセリフでしょ」
「そうかもな」
ただし、死ぬつもりはない。
オレは我儘なんだよ。
仕返しして生き延びてやる。
「行くぞ」
歩き出そうとしてオレは足を止めた。
煙が見えたからだ。見渡しの良い草原の彼方、樹冠に被さるように黒煙が広がっていた。
昨日立ち寄った村の方角だった。
男たちが頭をよぎった。報復にでも来たのか?
「知ってたのか?」
オレの問いかけにリュシエルが首を激しく振った。
リュシエルは読者という客観的立場で嘘をつかない。筋書きには無言を貫く。
彼女の反応から、予定調和にないことが起きているという考えに行きついた。
リリアの笑顔が浮かんだ。
彼女を見捨てるという選択肢は、オレの中に存在しない。




