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悪役令息に転生したオレは、勇者のために死ぬべきか~それは処刑前夜に始まった。世界に殺されるなら、運命に抗い脱獄する――これがオレの物語だ~  作者: 未玖乃尚
第二章 勇者と竜王がいるらしい

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14 浮いた死を安定させるには

 甘い匂いがジュリアンの記憶を呼び起こし、オレに伝えたのか。

 瞼越しに太陽の眩しさを感じた。

 ずいぶん寝たような気がする。澄んだ空気が鼻を通して肺を満たした。


 寝る前に嗅いだ異質な甘さが運んだものは、体に刻まれたジュリアンの記憶だった。

 風が草木を揺らして、淀みを押し流した。


「朝……か?」

 時間を把握しきれない。やけに清涼な空気を味わって、朝だと直感的に理解した。


 昼食後に勇者と知り合って、そこから昼寝をしたわけだから、かなり長い間眠っていたことになる。

 脱獄後の疲れもあったのだろう。そう考えると、ちょうどいい休息だったのかもしれない。


 木を見上げると、枝の間に張られた蜘蛛の巣が視界に入る。光に反射して輝く。蜘蛛が糸を伝って、枝から枝へと橋を渡るように移動した。


 手首をかざす。

 爪痕がまだ残っている。ジュリアンの父親に捕まれた時のものだ。

 デーモンから滲んだ香りがジュリアンの夢を想起させたというわけか。


 繋がった。お前が差し向けた追手か。

 誤算だったな。オレは素直に殺されてやったりはしない。

 即座に処刑しなかったことがお前の運の尽きだな。オレは脱獄して、まだ生きてるぞ。


 必ず後悔させてやる。

 勢いよく体を跳ね上げると、胸元からボテっと小さなものが落ちた。


「あ」

「ちょっと、人がせっかく気持ちよく寝てんのに何すんのよ!」

 リュシエルが歯を剥き出しにして怒鳴る。


「オレはお前の枕じゃない!」

「失礼ね、私の枕はもっと寝心地いいわよ。高級天使の羽根が詰まってるんだから」


「お、それいいな。今度寝かせてくれよ」

「なん……ってデリカシーのない男なの。女の子の枕で寝るって、それいったいどういう状況なのよ!」

 リュシエルは、ぶーぶー頬を膨らませて腕を振り回す。


「そりゃ、そういう状況なんだろうな。というか、手のひらサイズの天使に枕を借りるのは無理か」

「ふふん。分かってないわね。私は、あえて体を小さくしてるわけ、コスパ重視よ、コスパ。本来の私は人間サイズなの」


「ほう。そのルックスで人間サイズとは。是非見たいもんだな」

「そうね、イズルが死んだら、本来の姿であの世に連れて行ってあげてもいいわよ」


「あのな」

 重要なことは隠すし、死亡イベントを傍観するし、人の飯は食らうし……

 オレは髪に指を突っ込んだ。

「たまにはオレの手助けでもしたらどうなんだ」


「ありえなーい」

 眠そうに欠伸をして答える。

 リュシエルは筋に関しては無言を貫こうとしている。


 だが、基本的に真面目で嘘をつくのが苦手な性格だ。

 本音や焦りが口を突いて出たり、不自然な沈黙もヒントになりそうだ。


 ジュリアンが痩せた理由、村での唐突のだんまり、デーモン戦で勇者が現れた時の動揺。

 これらは全て筋に関することだ。

 そして、ジュリアンの夢で出たキーワードは、村、真理の剣、勇者、監視だ。


 加えて勇者一行は竜王討伐の旅をしている。

 何よりも勇者エミルの輝きと存在感は、この世界の騒めきすらも無へと()してしまうほど圧倒的だ。


 これらから導き出される筋書きは……

 勇者物語。


 勇者エミルを主人公とした小説だ。

 この世界でオレの死が、物語を動かすきっかけになるのならば。

 ジュリアンの断頭台での処刑は、勇者を次の行動へ移すためのイベントということになる。


 つまり、オレの命は、勇者の栄光を支えるための装置、駒だ。

 オレが生存することにより、『ジュリアンの死』が確定せずに、宙に浮いてしまった。装置が機能しなかった。


 物語にとって、オレは不安定な存在だろう。

 この状態を安定させるには、『ジュリアンの死』を確定させる必要がある……

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