12 勇者パーティーのルール
勇者たちがいなくなり、ポケットに入れておいた果実を渡すと、リュシエルは喜んで齧りついた。
「わーい、ありがと。まさか、貰っておいてくれるとは。イズルも気が利くとこあるんだね」
「真横で恨めしそうに見てるからだ」
「だって私が食べられないのに、一人でバクバク食べてるんだもん」
リュシエルは甘さを噛みしめて体を揺すった。
「甘い! おいしい!」
巨大魚に飽きてたからか、特別幸せそうに顔全体がくちゃくちゃに綻ぶ。
こんな笑顔ならずっと見ていられる。
「勇者がいても、遠慮せずに食べればよかったのに」
「私の姿は見えないんだってば。空中に食べ物が浮くとか、齧られて減ってくとことか想像してよ。怪しすぎるでしょ」
「それはそれで面白そうだ」
「そう思うのはイズルだけ」
リュシエルは勇者が去っていった方向を振り返った。
「良かったの? 一緒に行かなくて。仲間が増えると生存率も上がるのに」
「お、オレに死ね死ね言ってたヤツのセリフとも思えんな。情でも芽生えたか?」
「ないない。私は感情を持たずに、結果を求めるだけ。単に疑問に思ったの。イズルは効率を重視してるようなところもあるでしょ」
「効率よりも重要なのは」
指を立てた。
「まず、オレは男パーティーに入るのは嫌だ」
「それ、真面目な答えなの?」
「一番の理由だぞ。大事なところだ。次に……」
地面を這う大木の根を、枕代わりにして横になる。
もともと食後は昼寝の予定だった。
「あのパーティーにはルールがある」
「ルールって?」
「勇者がいてこそ成り立つパーティーだ」
「そりゃ勇者パーティーだからね」
「それは本質じゃない。あいつらは全てを勇者に捧げてる。あのパーティーは勇者を引き立てるために存在してる、それがルールだ」
あいつらは誇らしげに勇者を語る。デーモンとの戦闘の見せ場を任せ、どこまでも付いていくというセリフ。
リュシエルの横顔を覗く。反応はない。
やはり、リュシエルは物語の筋道に関することになると、途端に口が重くなる。
この世界を知るヒントになる。
「オレは違う。オレの人生はオレの物だ。他人に預けたりはしない。それに……」
リュシエルをつつく。
「お前も二人のほうがいいだろ?」
「それだと私がイズルと二人きりでいたいみたいじゃん」
「仲間が加わると、メシ食う時もいちいち視線を気にしないといけないぞ」
「それは……あるかも」
「というか、お前は物語にいないキャラだから、食事しなくてもいいんじゃないのか?」
「楽しみに必要なの!」
「リュシエルは、本当に食うのが好きだな。そのうち、また美味い物持ってきてやるよ。オレが生きてる間はな」
「む、悩む提案だね。イズルの死を望むべきか、食べ物を取るか」
憎たらしくリュシエルが言う。
怒る気力も湧かないくらい、脳が眠気で揺れる。欠伸が出た。
ジュリアンの体は負傷して、疲弊している。食事後に眠くなるのも当然だ。
昨夜脱獄して戦い続けてたからな。
「そこはオレを選ぶところだろ……」
花の匂いだろうか。
うとうとし始めた頃、甘い香りが鼻の奥をくすぐった。
意識が曖昧になる。デーモンから漂っていた香りと結びついた。
この、むせ返りそうになるほどの甘ったるい匂いは……
記憶にない。だが体が覚えている。
オレのものではない、これは俺の記憶だ。……




