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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
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短編集

小さな桜と太陽

作者:

 朝、ランドセルを背負って家を出るとき、胸の中が少しドキドキする。

それは学校に行くのがこわいからじゃない。

学校にはゆずちゃんがいるからだ。


 ゆずちゃんは、わたしの隣の席の女の子。

髪がふわふわしていて、いつもお花の形のピンをつけている。

笑うとね、ほっぺが少し赤くなって、太陽みたいに明るい。

その顔を見ると、胸がきゅんとなって、ことばが出て来なくなっちゃう。


 授業の途中、ゆずちゃんの消しゴムが転がってきた。


「ゆずちゃん、落としたよ」

 わたしはすぐに手を伸ばして拾い上げて渡した。

ゆずちゃんが小さく笑って「ありがとう」と言ってくれた。

その声を聞いた瞬間、胸の奥がじんわり熱くなっちゃった。

どうしてだろう。たったそれだけなのに、

心の中が春みたいにふわ~~って暖かくて、明るくなっていくの。


 休み時間、ゆずちゃんが走ってきた。

「綾ちゃん、一緒に遊ぼう」

その声を聞くだけで、体の中がぱっと元気になる。

いつも元気だけど、もっともっと元気になる。


 ゆずちゃんが、わたしの手をぎゅっと握ってきた。

その手はあたたかくて、やわらかくて、ずっとつないでいたくなる。

つながってる? っていうのかな。

もうね、ぐわ~って感じになっちゃうの。


 二人で校庭のブランコに行った。

ぎい、ぎいと音をたてながら、ゆずちゃんがこいで、わたしもとなりでこぐ。

風がスカートをふくらませて、空がどこまでも青い。

ゆずちゃんの髪が光に透けて、花びらみたいにきらきらしていた。


「綾ちゃんの髪、さくらみたいだね」

そう言われて、顔が熱くなった。

さくらとは、四月に咲くピンクのきれいな木なんだよ。

かわいい木で私も大好き。

でもすぐになくなっちゃうのが少し残念。


「ゆずちゃんのほうが、太陽みたいだよ」

小さな声で言ったら、ゆずちゃんが目をまんまるにして笑った。


「じゃあ、わたしたち、花とたいようだね」

その言葉が嬉しくて、わたしも笑った。

その時の風の匂い、今でも覚えている。


 放課後。

「綾ちゃん、うちで遊ぼう」

うれしくて、思わず大きくうなずいた。


手をつないで歩くと、ゆずちゃんの手がぽかぽかして、心まであたたかくなる。

玄関を開けた瞬間、甘いお菓子のにおいがふわっと広がった。

お母さんが笑って「いらっしゃい」と迎えてくれる。

その声がやさしくて、胸がくすぐったくなった。


 ゆずちゃんの部屋は、ぬいぐるみがいっぱい。

くまさんもうさぎさんも、まるでおしゃべりしているみたいだった。


 二人でお人形あそびをしていたら、「この子ね、綾ちゃんのこと大好きなんだって」ゆずちゃんが、ふいに言ってきた。


 わたしは笑って、「ほんとに?」と聞き返した。

すると、ゆずちゃんは自分の人形を、わたしの人形にそっと近づけた。

人形のくちびるが、ちゅって小さな音を立てる。


「ほら、ちゅーだよ」


 その言葉と同時に、胸がどきんと跳ねた。

ゆずちゃんが小さな声で言った。

「わたしね、綾ちゃんがいると、毎日がたのしいの」

その言葉がやさしく胸の中に入ってきた。

勇気を出して、わたしも言った。

「わたしも、ゆずちゃんがいないと、さびしいよ」


 ゆずちゃんが笑って、わたしをぎゅっと抱きしめた。

お花のにおいがして、胸がじんわり温かくなる。

涙が出そうだったけど、こらえた。

うれしくて、胸がいっぱいだった。


 それから毎日、わたしたちは手をつないで登校した。

休み時間はブランコ。帰り道は、ランドセルをぶつけあいながら笑った。

雨の日は、一つの傘をさして帰った。


 ゆずちゃんが「ぬれちゃうよ」って、傘をわたしのほうに寄せてくれる。

そのたびに、胸の奥がくすぐったくてうれしかった。


 わたしは思う。

ゆずちゃんの笑顔は、わたしのいちばんの宝物だ。

いつか大人になっても、この気持ちはきっと変わらない。

ゆずちゃん、ありがとう。だいすき。


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