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華美さんの危機


 その日の放課後、二度寝屋が病院へやってくると、早速本題に入った。

「二度寝屋、旧校舎のプールに清掃業者が入るって本当?」

「お? なんデ知ってるンダ? 来週末一斉清掃らしいヨ」

 二度寝屋は、無表情の面をかくりと傾げて僕を見つめた。

「頼む。それ、どうにかやめさせてよ!」

「は? なんでダヨ?」

「だって、そんなことしたら……華美さんがここにいられなくなるんだ」

 二度寝屋は怪訝そうに眉を寄せて僕を見ている。

「なにを言ってるンダ? とうとう頭にまで菌が回ったカ? そもそモ荒矢田があそこで倒れたカラ清掃業者が入ることになったんだヨ?」

「僕が倒れたから?」

「あそこハ黴だらけで健康ニモ悪いからな。お前が病院に運ばれたオカゲで、校長がようやく重い腰を上げたラシイヨ」

 なんてこった。

「頼む! 二度寝屋、なんとかして。このままじゃ華美さんが」

「なんとかシテって言われテモ。そもソもあそこは立ち入り禁止なんだヨ? そんな簡単に校長を説得できなイだロ。今さラ清掃業者をキャンセルするわけにモいかないだろウシ」

「クソ……アイツの居場所は分かんねえし、清掃業者を止める方が簡単だと思ったのに……」

 肩を落とした俺の様子に、

「どうしたンだ? らしくないゾ? そもそも旧校舎に清掃業者が入るなんて、なんで学校二来てナイお前が知ってたんだヨ?」

 そういえば、まだなにも話していなかった。

「僕がよく見る夢のこと、覚えてる?」

「ウン? 華美さんの悪夢のコトダナ?」

「そう。でも今回出てきたのは華美さんじゃなくて、疫病神だったんだ」

「疫病神ィ?」

「その夢の中で、疫病神が言ったんだ。気に入らないから彼女を追い出すって。彼女の住処のプールを清掃するって」

「なんダ、その夢。予知夢ってヤツ?」

「なぁ……二度寝屋。僕は、この恋を諦めるべきなんだと思う?」

 二度寝屋がその答えを知るはずがないとわかっていても、聞かずにはいられない。

「華美サンのこト?」

「……昨日、彼女を突き放して、これで良かったんだって思った。どうしたって僕たちは結ばれない運命なんだって思い知ったから。……でも今日、華美さんの夢を見れなかった。たったそれだけのことなのに、ずっと悩まされてきた夢のはずなのに、すごく……すごく寂しいんだ」

「……なぁ、荒矢田。俺が思う二、お前たちは結ばれない運命なんかじゃないと思ウ」

「だって僕たちは潔癖症と黴の付喪神だよ? しかも僕は彼女の居場所まで脅かしてるし、そもそも人間とあやかしだ。どう考えたって、相容れない存在同士だよ」

「そういウ問題でハない。要は心ノ問題だってコトだヨ。人間の中にモ、神やあやかしと結婚してる人間なんてたくさんいるゾ?」

「それはそうかもしれないけど……」

 二度寝屋は挑発するように続けた。

「お前はタダ覚悟がないダケだ。華美さんがあの居場所を失ったらどうなる? 彼女自身が消滅してしまう可能性だってアル。そうなってモいいノカ?」

「…………そんなの」

 いいわけない。でも、どうしたらいいのかもわからない。

「お前の気持ちはその程度だったのカ? このままそうやって、好きな子ヲ見殺しにするのカ?」

「…………でも、どうすれば」

 僕はただの人間だ。特殊能力を持った神やあやかしとは違う。

「疫病神はドンな容姿をしてイタ?」

「容姿は……そうだな。たしか、緑色の和服を着ていた。髪は高い位置でツインテールにしていて、髪色は黒。外見は幼めで中学生くらいに見えたかな」

「……フフフ。任せろ。俺に考えがアル」

 二度寝屋がニヤリと笑う。

「え?」

 僕は眉を寄せて二度寝屋を見つめた。


 ――――――


 そして、誰もいないなにもない真っ白な空間。二度寝屋と作戦会議をしてから眠りにつくと、やはり今日も同じ夢を見た。僕は例の疫病神の少女と向かい合っている。

「おう、荒矢田よ。もうすぐお前の愛しの彼女が消えるな」

 疫病神は勝ち誇ったように言った。

「疫病神といえど、お前も案外役に立つことがあるんだな。礼を言うよ」

 僕は柔らかな笑みを浮かべて、そう言った。

「……む? どういうことだ?」

 途端に疫病神の表情が険しくなる。

「助かったと言っているんだ」

「なぜだ……お前は彼女が好きなのだろう? お前は彼女を失いたくないはずだ。だから我はこんな手の込んだことを……」

「ハハッ。有り得ないよ。僕は潔癖症なんだ。それは君も知っているだろう?」

「それはそうだが……でも、好きなのではないのか?」

「君が彼女を消してくれるならむしろ助かるよ。実は僕、ずっと悩んでたんだ。彼女は可愛いけど、臭いしジメジメしてるし、潔癖症だと知っているにもかかわらず僕のところにすぐ近付いてくるしで困ってたんだ」

「なんだなんだ? そんなのはつまらん。我はお前を喜ばせたくて清掃業者を呼んだつもりはない。そういうことならば清掃業者は撤退させてやる!」

「そんな! そんなことは言わず、彼女を追い出してよ! 僕はもう限界なんだ!」

「ふん! せいぜい黴と恋心の狭間で苦しむがいいさ! では、我はドロンさせてもらう!」


 言い逃げるように、疫病神は煙となって消えた。


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