第5話
響は、眠っている秋子を見つめていた。
『秋子が起きない!?』
『外傷は治療した。問題ない。脳にも異常は見つからなかった。ただ、目を覚まさない。起きるのを待つしか手立てはない』
『……』
「なあ、秋子……」
響は眠る秋子に1人、話しかける。
「俺、お前といて楽しかったぜ……。勝手かもしれないけど……」
秋子は、安らかな寝息をたてている。
「お前のおかげで、健常者とか障碍者って考えてる自分が馬鹿みたいだ、って思えた。……まあ、嫌な奴は嫌だけどな」
響が、いくら話しかけても秋子は起きない。
響は、ベッドにすがりつく。
「なあ、起きてくれよ……。お前の事、もっと知りたい……。お前と、また一緒に……」
「そこまで言われちゃ、起きない訳にはいかないよ」
「しゅ、秋子!?」
秋子は目を開け、喋った。
「い、いつから起きて……」
「響さんが部屋に入ってから。起きようと思ったけど、なんか話し始めたから、タイミング逃して」
秋子の言葉に、響は、かーっと顔を赤らめる。
「響さん」
「な、なんだ?」
「一緒に、帰ろうか」
「ふ~ん。組織を、抜ける」
秋子の怪我が治るのを待って、秋子は、凛にそう告げた。秋子の額から、冷や汗が流れる。
「そうか、そうか」
秋子と響は緊張の面持ちで、凛の言葉を待つ。
「オッケー」
「え?」
予想していた言葉とは裏腹に、軽い言葉が返ってきて、秋子は、間抜けた声を出した。
「基本さ~、我らの組織って、来る者精査、去る者は追わず、なんじゃよね。ほら、やる気無い奴にいられても迷惑じゃから」
「は、はあ……」
「じゃが、組織に関する記憶は抜かせてもらう。当たり前じゃろ?」
「はい……」
凛の言葉に、秋子は少し寂しそうな顔をした。
「心配せずとも、ここで過ごした記憶は抜かん。皆との交流の記憶が無くなるのは寂しいじゃろ。アジトの場所や、組織の情報を抜くだけじゃ」
「あ、ありがとうございます……!」
秋子は、パッと顔を明るくする。
「ん~、まあ、しかし、うちの能力者に『視て』もらって、せっかくスカウトしたのにのう……。残念じゃ」
「あ……す、すみませ……」
「それほど、そいつが愛しいか」
「あっ!? え!? そ、そういうのじゃ……!」
ニタニタ笑う凛に、秋子は、あわてふためく。
「それじゃ、記憶を抜かせてもらうとするかの」
凛は秋子達に近付き、額をトン、と触った。
それからの、記憶は無い。
秋子達が気がつくと、見慣れぬ天井があった。
どうやら、宿屋らしい。
秋子達は、すぐさま帰る準備を始めた。
「秋子……響……」
衛芯は、目の前の現実に、感嘆した。
「ただいま、です……」
秋子は、少し気まずそうに言った。
「お帰り」
衛芯は、ニッと笑った。