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第4話

 秋子は自室の机に向かって、小説を書いていた。そんな時……。

「おーい、秋ー、いるかー」

 反政府組織の仲間、『神崎 玲美(かんざき れみ)』が部屋の扉をノックした。

「あ、はい」

 秋子はノートを閉じ、扉の方へと向かう。

 ガチャリと扉を開けると、そこには……。

「な……何で……」

 玲美と、手錠をされた響が立っていた。


「何で……この人が……」

 秋子は、わなわなと響を指差した。

「なんかよー、拘束でも何でもしていいから秋に会わせろ、って来たらしいぜ」

「か、帰……」

「秋子、俺はお前と話しに来た。頼む、俺と話してくれ」

 響は頭を下げた。

「なっ……」

 秋子はそんな響の態度に驚きを隠せなかった。

「秋ー、こいつどーするー? 記憶抜いて叩き出す? それか殺すか?」

「……」

 秋子はしばし黙る。

「秋ー?」

 玲美はそんな秋子の顔を、頭を逆さにする様にして覗き込んだ。

「……わかり……ました……。この人と話します……」


 部屋には秋子と響の2人。玲美には席を外してもらった。

「……」

「秋……」

「何で来たんですか」

 秋子は響の言葉を遮って話した。

「お前と、話をする為」

「1年前も言ってましたね。でも、馬鹿じゃないですか? この組織には、あなたの情報がある。 殺されるかもしれないと、思わなかったんですか?」

「その覚悟で来た」

「何でっ……」

「まず1つ。お前に謝りたい。すまなかった」

 響は、また、秋子に頭を下げた。

「なっ……何を……」

「お前の事、『健常者』というくくりに縛って、1つも知らず、知ろうともせず、無理強いや、嫌な事を言い続けて悪かった。……謝っても……許される事じゃないのは……わかる……」

「……」

 秋子は、響の言葉を黙って聞いた。

「もう1つ。横暴なのは、わかってる。俺はお前の事が知りたい」

「何が……知りたいんですか?」

「お前が、どうして家出したか。なんで、勉強が嫌か。なんで、『健常者』という言葉に過剰に反応したか。ホントは、もっと知りたいけど、俺が謝る部分はそこにあると思う」

「……わかり……ましたよ。あなたの過去も教えられましたし、私も言います」


 私は、虐待を受けていました。

 虐待と言っても、身体的、性的、ネグレクトではありません。いわゆる教育虐待と言うやつです。

 その顔、教育虐待が何かわかってませんね。いいです。説明します。

 教育虐待とは、教育熱心な親や教師が子供に過度な期待をして、思うような結果が出ないと厳しく叱責する事を指します。子供の人権を無視して、勉学や習い事を社会通念上許される範囲を越えて無理強いさせる行為です。

 塾に通わせられて、1日12時間以上勉強しろとか言うんですよ? 遊ぶ時間は? 寝る時間は? 成長期の子供に全部削れ、って言うんですよ? 馬鹿じゃないですか?

 わからない問題があれば怒られる。テストの成績が悪ければ怒られる。

 親に塾に行きたくないと言ったら、家が荒れました。

 それでも、もう塾にも学校にも行く気力が無くて、家にこもっていたら、祖母が、

「あの子は目が見えないのに歌を歌って頑張ってるんだねぇ……」

「あの人は歩けないのに仕事をして頑張ってるんだねぇ……」

 遠回しに私に嫌味を言うんですよ。「障碍者のあの子は頑張っているのに……」って。

 これ以上……何を頑張れと? 今までの私の努力と苦痛は全部無視?

 いや、最初から見ていなかっただけかもしれませんね。

 限界を迎えた私は、能力を使って、遠く、遠くに逃げました。


「それが、あなたとの出会い、理由です」

「……」

 響は衝撃を受けた。

 自分が健常者を憎むのは当たり前だと思っていた。それだけの理由がある、と。実際そうだが、健常者にも障碍者を憎む理由があるなんて……。

「……」

「満足しましたか?」

 響は、もう一度、秋子に頭を下げた。

「悪かった」

「……満足したなら、帰って下さい」

「ここに居ちゃ、駄目か……?」

「は?」

 秋子は響の言葉に目を丸くした。

「もっと、お前の事が知りたい」

「ば……馬鹿、ですか!? 殺されるかもしれないですよ!?」

「お前を探すと決めた時、その覚悟はした」

「……知りませんよ」


 秋子が、組織の幹部、あの金髪の少女、『一ノ瀬 凛(いちのせ りん)』にこの事を言うと、

「オッケ~。面白そうじゃしの」

「ええ!? 良いんですか!? だって……」

「わしが『面白そう』と思ったから、良いんじゃ」

 秋子の言葉に凛はニタリと笑う。

「わしらの邪魔をせんかったら、それでよい」

 凛は、まるで、響の存在など、脅威では無いかの様に言う。

「わかり……ました……」

 秋子は下を向いて、そう答えた。


「……なんで、私の部屋に来るんですか……」

 秋子は扉の前の響に言う。

「言ったろ? お前の事を、もっと知りたい、って」

「これ以上、何を知りたいんですか……」

「お前の好きな事、もっと見せてくれ」

「は?」


「か、かかか、勝手に見たんですか!?」

 秋子は、響の言葉に顔を赤らめ、動揺した。

「いや、そのまんまだったから。まだ、かいてるか?」

 響は、悪びれも無く言う。

「……かいて……ますけど……」

「見せてくれよ。俺、お前の作品のファンなんだ」

「…………」


「すっげ。さらに面白くなってんじゃん」

 結局、秋子は、響に己の作品を見せた。

「……」

 響が作品を見ている間、机に向かって、小説を書いていた秋子は、顔を赤らめる。


「秋子ー」

 また、とある日、響は秋子の部屋の扉をノックした。

「なんですか。作品は全部見たでしょう?」

 秋子は、呆れ気味に扉を開けた。

「お前の好きな食べ物、何?」

「は?」

「外に食いに行こうぜ」

「は?」

 響の言葉に、秋子はもう一度そう言った。


「結局……来ちゃった……」

「美味。秋子も食えよ」

 呆然としている秋子をよそに、響はこの店名物、濃厚プリンを口に運んだ。秋子と同じものを頼んだ。

 響の言葉に秋子はため息をついて、プリンを口に入れる。

 その瞬間の秋子の瞳の輝きを、響は見逃さなかった。


 また、とある日。

「秋子ー」

「今度はなんですか」

 またしても部屋の扉をノックしてきた響に対して、秋子は、また呆れながら扉を開けた。

「お前、今、ゲーム何やってんの?」

「……『モンスター狩人3』です」

「よし、買ってくるわ。一緒にやろうぜ」

 秋子は諦めたかの様にため息をついた。


「うわっ! 駄目だっ! めっちゃ攻撃当たる……!」

「あなたはしっぽ側をやって下さい! 私が頭を砕きます!」

 なんだかんだ楽しんでいる秋子を見て、響はクスリと笑った。


 また、とある日。

「秋子ー」

「今度はなんですか? 作品? 食べ物? ゲーム?」

「いや、ちょっと話したくて」

「?」


 2人はベッドの縁(へり)に座った。

「話って、なんですか?」

 秋子の言葉に、響は1拍置いてから話し始めた。

「……お前、衛芯さんの元に帰るつもりない?」

「……」

 響の言葉に秋子は押し黙る。

「……」

 響が秋子の言葉を待っていると、秋子は口を開いた。

「今さら、どんな顔して帰ればいいんですか……」

「普通の顔。衛芯さんは、お前の事待ってるぜ」

「……」

 秋子は、それ以降、言葉を発する事は無かった。


 また、とある日。

「秋子ー」

 響の声に、扉が、ガチャリと開く。そこには、普段着とは違う、『戦闘』に適した服を着た秋子がいた。

「今日は『任務』なんで」

「……そうか」

 秋子は響の横をすり抜けて行った。


 響が、あてがわれた部屋でゲームをしていると、なんだか広間が騒がしい。部屋を出て吹き抜けから見てみると……頭から血を流した秋子が運ばれていた。

「秋子!?」

 響は急いで秋子の元へと駆けつけた。

「秋子はどうしたんだ!?」

 響は周りの者達に聞く。

「任務中、頭を殴られて気絶した。これから治療にあたる」

 響は運ばれて行く秋子を呆然と見るしかなかった。

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