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プロローグ

 この世界の人間には、1人1つ、超能力が授けられている。能力の種類は様々だ。

 今日も、そんな世界で皆は生きていた。


「やってられっかっての!」

「お客様、店内で暴れられては他のお客様にご迷惑です……!」

 顔の赤い、片手に酒瓶を持った小太りの中年男性が飲食店で暴れている。

「この歳で研究所をクビ! これからどうすりゃいいんだよ!」

「お客様……!」

「うるせぇ!」

 中年男性は酒瓶を店員に振り下ろす。

「!」

 店員は来る(きたる)衝撃に目をつむって構えたが、それはいつまでもやって来なかった。

 恐る恐る目を開けると……

「通報があって来た」

 警備隊の制服姿の青年が中年男性の腕を掴んでいた。


 警備隊。それは政府に属する、あらゆる事件や揉め事、テロ等を沈静化する為に作り上げられた組織。

 その組織一員である『白森 響(しろもり ひびき)』は、男性が暴れているという通報を受け、現地まで走っていた。隣には同じ警備隊の男性が。

「今日も今日とて市民の使いっぱか~」

 男性はぼやきながら走る。

「……」

「お前もさ、いつまで『その目』で警備隊いるわけ?」

 男性は響の右側の顎の辺りまで伸びた薄い緑色のボサボサの前髪に隠れた眼帯をさす。

「……」

 右側とは対照的に、長く伸ばした左の前髪は後ろの長髪に交ぜて一緒にくくり、視界は良好だ。右との分け目にはパチンと留めるタイプのヘアピンがつけられている。

「今日もだんまりかよ」

 男性は響に侮蔑の言葉を呟いた。


「なんだよ……警備隊かよ……」

「これ以上暴れるなら連行する」

「うるせぇ!」

 中年男性は酒瓶を逆側の手に持ち変えて店員を殴ろうとする。

 ガッ……!

 酒瓶が、頬に当たった。

 店員に、ではなく、店員を庇った響に、だ。

「……口ん中切った」

 響はぼそりと呟く。殴られた頬も赤くなっている。

「ははっ! ざまぁねぇ……がっ……!?」

 刹那、中年男性の頬が殴られた様に赤くなる。

「い……いってぇ……何しやがった!?」

 響は動いていない。他の誰も。

「自分がやった行いを省みろ」

 そう言って響は中年男性に手錠をかけた。


「おー、響、お帰……その頬どーした?」

 響の元保護者で同居人、そして警備隊の先輩、上司の、『坂田 衛芯(さかた えいしん)』は響の腫れた頬と手当ての跡を見て言う。

 彼の外見は20代前半に見える。18歳の響の元保護者としては若すぎるが、彼の能力は『不老健勝(ふろうけんしょう)』。ある一定の年齢から老いず、身体も丈夫、という能力だ。彼の本当の年齢は響も知らない。

「酔っぱらいに酒瓶で殴られた」

「はっはっは! そうか。そんな事もあるよなあ。ま、大事にはいたらんで良かったよ。で、『やり返した』のか?」

 衛芯はニヤリと笑う。

「もちろん」

 響は、ふん、と鼻を鳴らした。

 響の能力。それは、『自分の傷や痛みを対象にも与える』という能力だ。致命傷でも、意識があれば与えられる。そして、それは、身体の傷だけでなく、『心の傷』も同様だ。

 だが、響は、好んでそれをしない。自分の心の中を覗かれている様で、気分が悪いからだ。

「ははは! 元気でよろしい! とりあえず、飯作ったから食べるか?」

「……ああ」

 響は頬と口の中の痛みを我慢して、晩飯を噛み締めた。


 風呂に入った響は、鏡の前で、右の前髪を上げ、眼帯を外した己の目を見る。

 垂れ下がった瞼に瞳の無い白い目。視力は無い。何度見ても『普通』とは違う。

 響は己の過去を反芻する。


 響は生まれつきこの目だった。眼帯と前髪で隠しているとはいえ、奇異の目で見られた。大人は腫れ物を触る様に、子供は差別の対象、格好のいじめの標的に。そして、家族は……。

 『何でこんな子産んだんだ』。と、毎日怒号と金切り声での責任の押しつけ合い。

 毎日毎日毎日毎日……。幼い響はもう限界だった。ある時、自分の生まれ育った街を飛び出した。家の金を盗み、食糧をなるたけリュックに詰めこんで電車を乗り継いだ。

 食糧が無くなると、金で買った。金が無くなると、人のいない場所を歩いた。

 そうして、響はとうとう力尽きた。

 覚えているのはそこまで。次に目を開けると、見知らぬ天井があった。

 それが、衛芯との出会いだった。

 衛芯は、倒れている響を自宅に運び、介抱したのだ。

 衛芯と響は話をした。

 あそこに倒れていた経緯。家には帰りたくない。警備隊や孤児院にも保護してほしくない。そして……。

「あのまま死んでれば良かったのに……」

 そこまで言うと、衛芯から拳骨が飛んできた。

 響が痛みに頭を抑え戸惑っていると、

「お前は俺が保護する。嫌になったら金でも何でも盗んで死なない程度に出てけばいい」

 衛芯は響を真っ直ぐ見つめた。

 こんな大人、健常者、初めてだった。

「まずは飯……痛でっ! な、何だ!?」

 衛芯は周りをキョロキョロと見回す。

 響は、笑った。


 それから、衛芯と響は共同生活を始めた。

 衛芯との生活は、新鮮で、楽しかった。

 学校には通えなかったが、家事の合間に自分で勉強した。わからないところは、仕事から帰ってきた衛芯に聞いた。

 衛芯は、警備隊の仕事をしていた。響がその仕事に興味を持つのはそう時間はかからなかった。

 だが、身分証明書を持っていない響には無理な事だと諦めた。

 が、衛芯は何故か響を警備隊の学校に入学させる事が出来た。もちろん、警備隊に入る事も。

「何したんだ?」

 と、聞いても

「年の功」

 と、言って笑うだけだった。

 そうして再び人の輪というものに入った響が感じたのは、やっぱり奴らはクズだと。

 昔と同じだ。衛芯が特別なだけで、健常者なんて……。

 健常者と共に健常者を守る。自分がやりたかったのは、こんな事か……?

 だが、自分の為に動いてくれて、学校に入るお金まで出してくれて……。そんな衛芯を裏切る事は出来なかった。


 そんなこんなで、今に至る。

 響はため息をつき、前髪を下ろした。

 明日もまた仕事だ。さっさと風呂を出て寝よう。

 そう思い、響は風呂場の扉を開けた。


 響の今日の仕事は、研究都市、つまり響達が住んでいる所の、周辺の見回りだった。人が全くいないが、最近、『反政府組織』の活動が活発化しているという。こんな所でも見回らなければどこでテロを起こされるかわからない。

 響は人がいない事に安心感を覚えていると、視界の端にうずくまった小さな人影を捉えた。

 それが、響と『荒井 秋子(あらい しゅうこ)』との出会いだった。

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