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2. 嫌がらせだぁ?そんなんチクるに決まってるだろ!!

最初の方に動物の死骸が出てきます。

ご注意を。


 「騎士を呼んできなさい」

 「ええ?」

 「聞こえなかったの?ここに騎士を呼べと言ったのよ」


 侍女は戸惑いながらもバルバラの宮殿の警護をしていた騎士を二人呼んできた。

 騎士たちは国王のお気に入りと噂されているバルバラの前に立たされ、期待半分不安半分の顔をしている。


 「第四側妃様、御用でしょうか」

 「この侍女が私に誰に渡されたのか分からない箱を押し付けようとしてきたの」

 「お、押し付けるなど……!」

 「代わりに開けて下さらない?」

 「陛下からの贈り物なのでは?」

 騎士が呆れた声を出す。こんなことで呼ばれたのか、と顔に書いてある。

 「もし中に入っているのが危険物で、私が怪我でもしたら、陛下は誰に責任を取らせようとするかしらね」

 「……」

 「警護のくせに危険物を持ち込ませたあなた方?それとも持ち込んだこの侍女?」

 こっちは国王様の寵姫なんだぜい。

 国王陛下のご威光をぎんぎらに輝かせながら偉ぶるバルバラに、騎士たちはさすがに怯んだようだった。

 「分かりました、開けましょう」

 年配の方の騎士が、箱に手をかける。

 リボンを解いて、慎重に中を開けた。

 「……うっ」

 「ひぃっ」

 「あら、猫の首?可哀想にね……こんな詰まらない嫌がらせのために殺されてしまうなんて」

 「そ、側妃様……あの……」

 「その侍女を捕えて頂戴。その箱は保存しておいて。ドルガン様の公務が終わったら、私から仔細をお話しするわ」

 「わ、私から報告致します」

 年配の騎士は侍女を素早く拘束すると、バルバラに頭を下げる。

 バルバラからこのことを話されては、どんな脚色をされるか分からないと焦ったのだろう。

 「ふうん……。いいでしょう。あなたから陛下に報告して。ただ、保身のために事実と違うことを話さない方がいいわよ?私とあなた、陛下がどちらの話を信じるかは分かり切っているでしょう?」

 「も、もちろんです。ありのままをご報告致します」

 騎士たちは、「違います!」「話を聞いてください!!」と訴える侍女を引っ立てて部屋を出て行った。

 



 「バルバラ、無事だったか!?」

 ほどなくして公務中だったはずのドルガン王が部屋を訪問した。

 「ご安心を、ドルガン様。動物の首だったことには驚きましたが、騎士の方々が対処して下さったので問題ありませんわ」

 「何を言う。侍女はもちろん、騎士たちも得体のしれない箱をお主の部屋に通した時点で処罰ものだ」


 だよねー。

 ただあの騎士は、バルバラの助言通り事実そのままを報告したようだ。


 「ドルガン様、あの侍女はこの部屋の専属でした。彼らが見逃すのは仕方のないことかと」

 「ううむ……そなたがそう言うのならば」

 「むしろ、私を脅すようなあの箱を届けた侍女を操っていた者の方が恐ろしいですわ!一体何者の仕業なのでしょう」

 バルバラは持参金こそ実父から絞り取ってきたものの、使用人は連れて来なかった。

 なのであの侍女は、王宮から派遣された侍女のうちの一人だ。

 「あの侍女の独断ではないのか?」

 「そんなことをしても彼女には何の得にもなりません。私を怒らせて仕事を辞めさせられるのが関の山です。王宮侍女にとって、この仕事を首にさせられるほど不名誉なことはありませんもの。私を排除しようとする何者かの命令に違いありません」

 「うーん……」

 ドルガン王の反応が思ったより鈍い。

 彼は良くある女同士のいざこざだと思っているのだろう。

 もちろんそうなのだが、侍女が主犯で実行犯だと思っているのならば、ちょっと危機感がなさすぎる。

 「ああ!きっとあの侍女が罰されても、第二、第三の呪物が私の下に届けられますわ!!そうなれば、私は気を病んで王宮を辞してしまうかもしれません」

 「な、何!?それは困るぞ」

 

 やっと手に入れた夜の休憩所がなくなる。

 ドルガン王はにわかに慌てだした。

 「必ず犯人を見つける!」と言って出て行った国王の背中を、バルバラは呆れ顔で見送るのだった。




 次の日、バルバラは第一側妃マリエッタが主催する茶会に呼ばれた。

 少し濃いめの緑のドレスを選び、髪もハーフアップにして派手過ぎないよう注意して着飾る。

 バルバラの赤い髪と瞳は最初は血の色のようだと忌み嫌われるかと思ったが、この世界には本当に色とりどりの髪や瞳の色があり、特に赤色だからと煙たがられることはない。

 難点があるとすれば、派手な色すぎて、飾り過ぎると下品になりそうということくらいだ。

 なのでちょっと地味くらいがバルバラの美しさを際立たせるにはちょうど良かった。


 「ようこそ、バルバラ様。こうしてゆっくりお話しするのは初めてね」

 「お招きありがとうございます、第一側妃様」

 「あら、同じ侯爵家出身ではないの。どうぞマリエッタと呼んで頂戴」

 「恐れ入ります、マリエッタ様」

 第一側妃マリエッタは、女王然として椅子に腰かけたままだ。

 同じ侯爵家出身と言いながら、バルバラを下に見ているのは明確だった。

 とはいえこちらが年下だし、同じ側妃といえども末席なので、特に怒る理由もない。

 王家に嫁いだというのに実家の爵位を持ちだす方がどうかしている。

 なのでやはり腰かけたままの第二側妃(子爵家出身)と第三側妃(伯爵家出身)にも、バルバラは腹を立てることもなかった。


 バルバラが予想よりもずっと冷静なことが意外だったのか、マリエッタは物足りなそうだがそれでも茶会は進む。

 マリエッタはすでに席についている二人の女性を紹介した。

 「こちらは第二側妃のユージェニー様、そして第三側妃のリンダ様よ」

 「初めまして。バルバラでございます」

 バルバラは丁寧に礼をした。

 「よ、よろしく……仲良くして下さいね、バルバラ様」

 「もちろんでございますわ、ユージェニー様」

 儚げな容姿そのままの細い声音でユージェニーが挨拶する。

 リンダはバルバラに声をかけるつもりがないのか、無言で睨むだけだった。

 

 バルバラが席に着き、菓子と紅茶が運ばれて茶会が始まった。

 「バルバラ様はすっかり陛下のお気に入りなのね。どんな技を使ったのか教えていただきたいわ」

 早速マリエッタがジャブを入れてきた。

 「流行の恋愛小説を参考にしましたの。よろしければマリエッタ様にお貸しいたしますわ」

 「そ、そうね。そのうちね」

 「……」

 「……」

 もう終わりかい!粘れよマリエッタ!

 意外とうぶなの!?


 「あ、あの……バルバラ様……。侍女たちが話していたのですが……その、動物の首が届けられたとか」

 次におずおずと口を開いたのはユージェニーだ。

 「まあ畜生の首ですって?あなたにお似合いではなくて?」

 首と聞いた途端、それまで黙っていたリンダがにやにやと笑いながら扇を広げる。

 ユージェニーはおろおろとし、マリエッタは意外にも不快げな顔をしていた。

 「陛下を誑かすような雌猫は、いずれそんな末路を辿ると親切な誰かが教えてくれたのではないかしら」

 「……親切、ですか。何の罪もない動物の首を切るような輩が?」

 「しょ、所詮猫でしょう」

 「ユージェニー様」

 「え、あ、はいっ」

 「先ほど『動物の首』とおっしゃいましたが、猫だということはご存じでした?」

 「え、いいえ。どの動物かまでは……猫だったのですか?」

 「マリエッタ様は?」

 「私は動物の死骸としか聞いていないわ。てっきりそこらにいる鳥だと思っていたわ」

 「そうですか。……ふふふ」

 バルバラは悠然とほほ笑む。

 さて、どうしてやろうか。

 別にあんな嫌がらせは屁でもないが、気の毒な猫ちゃんの仇は討っておきたいところだ。

 「な、なによ!」

 失言に気づいたリンダがいきり立つがもう遅い。

 この性格だ、きっとマリエッタやユージェニーにも噛みつきまくっていたのだろう。

 いざという時、マリエッタたちはバルバラが望む証言をしてくれるはずである。

 そしてその機会は思いのほか早く訪れた。


 「王宮警邏だ!一同そのまま動かぬように」

 「ま、まあ!何事ですの!?」

 「警邏隊ですって!」

 側妃たちは椅子から飛び上がり、侍女たちは悲鳴を上げる。

 やってきたのは銀の仮面をつけた王宮警邏だった。

 王宮で起こるありとあらゆる事件を取り扱う、警察のようなものだ。

 侯爵家がバックにいるマリエッタの茶会に乗り込むとは、ドルガン王は犯人逮捕に躍起になっているようである。

 「無礼者!ここは第一側妃の御殿ですよ!!」

 マリエッタが毅然と声を出す。

 大したものだ、バルバラならば声が震えてしまうだろう。

 「第一側妃様、無礼はお詫びしますが国王陛下からの要望で、第四側妃様に呪物を送り付けた犯人を速やかに拘束するように申し付けられております」

 「陛下が」

 「邪魔をされるようならば……」

 「いいえ、邪魔はしません。速やかに任務を遂行しなさい」

 マリエッタが引き下がると、警邏たちは影のように動いた。

 「きゃあっ、な、何!?」

 悲鳴を上げたのはリンダだった。

 やっぱりこいつか。

 いたいけな猫ちゃんになんてことを!!

 「第三側妃様、ご同行願います」

 「そ、そんな!私にこんなことをしてただで済むと思ってるの!?」

 「陛下のご命令です」

 それでもぎゃあぎゃあ騒ぐリンダを、警邏たちはあっという間に連れ去ってしまった。


 


 後から知った話だが、リンダ妃は他の妃たちにも嫌がらせをしていた。

 だがマリエッタ妃は実家の力が強いためなかなか手が出せず、ユージェニー妃は二度も流産をしているので監視が多く攻撃しづらかった。

 そして標的にされていたのはもっぱら王妃のエヴァンジェリンだった。

 動物の死骸を送るのはもちろん、嫌がらせの手紙を送ったり、買収した侍女を使って茶会や会合に遅刻させたりしていた。

 エヴァンジェリン妃はなぜかその嫌がらせに黙って耐えており、調子にのったリンダはドルガン王のお気に入りになったバルバラに同じような嫌がらせを仕掛けた。

 おそらくバルバラが実家から虐げられていたことや、婚約破棄をされたことも事前に調べていたのだろう。

 ちょっと脅せば泣いて引き籠るか、エヴァンジェリン妃のように黙って耐えると思ったらしい。


 そんなわけあるか!!


 嫌がらせに黙って耐え、自分で何とかしなきゃと思うのはご都合主義の物語のヒロインだけである。

 バルバラが黙っているはずがないのだ。

 報・連・相大事!

 バルバラの期待通り、マリエッタとユージェニーはリンダの発言の違和感を証言し、あの侍女もリンダに命令されたことを白状した。

 こうしてバルバラを完全に侮ったリンダは、早々に王宮から退場したのであった。




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[一言] 敵に回すとやばいお方W
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