熟練度
さて、マリカが若干の及び腰で第4階層へと下りて来た訳だが。
「スラッシュ!」
「ファイヤーボール!」
第3階層からの階段を下りて直ぐにウルフが襲って来たのだが苦戦する事なく簡単に退けた。
ドロップアイテムはウルフの魔石とバラ肉だった。
ファングラビットも肉のドロップが多かったが第4階層も肉ドロップが多めだろうな。
マリカは肉がドロップして嬉しそうである。
「イエーイ!」
「イエーイ!」
二人で勝利のハイタッチをして。
「問題無さそうだろ?」
「うん!大丈夫そう!」
マリカも一体ウルフを倒して自信が付いたのか表情が変わった。
もう安心だな。
第4階層は草原階層だ。
ダンジョン内部には不可思議な事に一面の草原だったり森だったりする階層がある。
そういった屋外系の階層には太陽があったり雲があったり。
意地悪な所だと雨や雪が降っていたりする。
それらは実際の太陽や雲ではなく、ダンジョンが映し出す幻影の様なものだ。
前世的に言うと空を投影したプロジェクションマッピングみたいなものだな。
なので日差しを浴びても日焼けしたりしないので美容に気を使っている女性でも気軽にピクニック出来るのがダンジョンの草原階層である。
但し魔物はわんさかいるが。
因みにこれについては例外もあるのだが今は置いておいて。
「草原は目印が無いから闇雲に歩き回って階段を見付けるのは面倒なんだよなぁ」
「そうなの?」
「そうなんだよ。上り階段は壁伝いに歩けば見付かるんだが、下り階段は地面にあったりするから何処にあるかがわからないんだ」
「うへぇ。それは探すのが大変そうだね」
第3階層までは洞窟階層で部屋と道(と呼べる空間)で構成されていたから虱潰しに探索すれば必ずゴール(下り階段)に辿り着く仕様だったのだが、草原階層は辺り一面が草原なのでそうはいかない。
ダンジョンなので草原なのに壁はあるから壁さえ見付ければ上り階段を見付ける事は容易なのだが。
「暫くは通うだろうしマッピングアイテムでも買うか」
ダンジョン内のマッピングはシーフが育てば覚えるので少し勿体ないのだが、多少コストが掛かっても無駄に時間を使うよりはマシだろう。
TOPで時間が見られるのだが第1階層で30分。
第2第3階層で約1時間ずつ掛かっているので現在午後の2時だ。
マリカも戦闘のコツを掴んで来た感じだし、ここから先はあまり時間を使いたくない。
そんな訳で【アイテム】からマッピングシートを購入する。
このマッピングシートはダンジョンの一つの階層を登録すると歩いた場所がシート状に表示される初心者救済アイテムだ。
誰もがマッピングスキル持ちのシーフとパーティーを組んでいる訳ではないから使っている者はいたが。
但し7日経つと消滅する時限付きアイテムで5,000Bするので今の俺には痛い出費だ。
と言うか学園の図書室にダンジョン内部の地図があるのに冒険科は入室禁止とか止めて頂きたい。
「ここから少しペースを上げるからマリカがスラッシュで先制攻撃。
離脱して俺がファイヤーボールで仕留めるって流れで良いか?」
「うん!熟練度?って言うのを上げる為だよね?」
そう、スキルには熟練度があって、熟練度を上げる為には魔物に対して熟練度を上げたいスキルで一撃加える必要がある。
学園の授業なんかではスキルは地道な訓練を積む事で威力が増すなんて教えられているが、それは正解だが最適解ではない。
スキルの威力を上げるには熟練度を上げる必要があり、熟練度を上げるのに効率が良いのはスキルを使って魔物にダメージを与える事である。
そしてその魔物を倒せば熟練度が上昇する。
例えばウルフに対してマリカがスラッシュでダメージを与え、俺がファイヤーボールで仕留めたとする。
この場合はマリカに初級短剣術の熟練度が1、俺に初級火属性魔法の熟練度が1入る。
では仮にマリカがスラッシュを二度放って単独でウルフを倒し切った場合は熟練度が2入るのかと言えば、それは違う。
1体の魔物に対しての1つのスキルで得られる熟練度の最大は1である。
このルールがあるので、現在熟練度稼ぎで最高効率なのは俺もマリカもスキルを使用して2撃で魔物を倒し切る事だ。
この内容に加えて中級以上のスキルだと他に条件が出てくるのだが、初級の内はとにかくスキルを使って魔物を倒すとだけ覚えておけばいいとマリカには説明しておいたのだ。
「良く覚えてたな。偉いぞ」
「えへへ。子供じゃないんだから覚えてるよ」
頭を撫でたらマリカは笑顔を浮かべて喜ぶのでなでなでしてしまいがちだ。
もしもマリカに尻尾があったらブンブン振っている事だろう。
「さっきの戦闘で初級火属性魔法の熟練度100に達したからちょっと見ててくれよ。
ファイヤーボール!」
マリカには一戦だけ休んで貰って遠距離からウルフにファイヤーボールを撃つ。
するとさっきまでよりも少しばかり大きな火球が発生してウルフの体に着弾した。
おっと一撃じゃ倒し切れなかったか。
「スラスト!」
ファイヤーボールによるダメージで怯んだウルフを見て一気に距離を詰めたマリカが飛び上がり、背にダガーを突き刺して見事にウルフを仕留めた。
やはりマリカが授業をちゃんと受けているだけあって突き刺し技も理解していたか。
本当に今日までショートソードを使っていたのが勿体ないと言わざるを得ない。
「マリカ!ナイス判断!」
「ありがとう!自然と体が動いてたよ!
ロード君のファイヤーボールも凄かったね!威力が上がってた!」
「わっはっは!熟練度が上がればマリカの技も威力が上がるぞ!」
「うん!頑張るよ!」
ハイタッチをしてお互いを讃え合う。
この時間を削ればダンジョン攻略が捗るとかは言ってはいけない。
俺達結成したてのパーティーにとっては仲間との団結を深める大事な儀式なのだ。
決して可愛い女の子とキャッキャウフフして楽しみたい訳では無い。
無いったら無い。
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