前世の記憶とオークション
「すま、、、儂、、、転生、、、」
ぼんやりとした誰かの記憶を読み取る様に浮かび上がり。
「ゲーム、、、その、、、儂らが、、、」
誰かの記憶が自分の中に流れ込んで来る。
「お主、、、オーク、、、サービス、、、」
いや、どうやらこれは僕の、、、違うな。
俺の記憶であるらしい。
「それではの。楽しい異世界ライフの始まり始まり~。なのじゃ」
ああ、完全に思い出した。
あのテキトー神、俺が死に掛けるのを前世の記憶を思い出すトリガーにしてやがったな!?
前世で生きた全ての記憶を取り戻したタイミングで俺は意識を取り戻した。
しかし体がマトモに動かない。
三階から落とされて無防備な状態で体を強く打ち付けたのだからそれはそうだろう。
だがこのままダメージを抱えているのは明らかに拙い。
脳出血なんかが起きたら再生があっても治るかわからない。
出来る限り迅速に怪我の治療に当たる必要があるだろう。
どうにかして腕を上げようとしてみても手元で少し動かす事は出来ても上げる事は出来そうにない。
『仕方が無い。視線でやるか』
狭い視界の中でも宙に浮かんでいる四角い画面は確認出来る。
【ステータス】、【装備】、【アイテム】と上から下へと視線を移し。
【ショップ】の所で視線を止める。
【ショップ】を3秒間見続けるとショップ画面が開いたのでショップ画面の一番上にある【100B!HP回復ポーション】を3秒間見る。
すると【100B!HP回復ポーションを購入しますか?はい/いいえ】と表示されたので【はい】を3秒間見て購入が確定した。
【TOPへ】、【アイテム】、【100B!HP回復ポーション】、【取り出し】と視線で操作すると手元に小さな試験管らしき瓶が現れた。
薄いピンク色をした液体の入っている瓶の蓋をどうにか外して液体を体に零す。
するとすぐさま視界が広がり、傷は見る見るうちに消えて無くなってしまった。
「流石に三階から落とすのはやり過ぎだろうが!」
自分が放り投げられた窓に視線を送って文句を言うが、最早そこには誰もいない。
どうやら俺が落下したのを見届けた段階で興味を失って教室へと戻ったらしい。
教室ではこれから担任教師が終業の挨拶を行う事になっている。
最早そんなものに顔を出す気はサラサラないが。
「ふんふ~ん♪オークションのチェックでもしよっかな」
俺の気持ちは別の所にあるのだ。
それは自然と鼻歌が漏れてしまうぐらいの楽しみである。
前世で遊んでいたフルダイブ型VRMMO【GOD PLANET ONLINE】に実装されていた【オークション】。
俺はこの【オークション】を楽しみにGPOを遊んでいたと言っても過言では無いのだ。
まずはメニュー画面、面倒なので画面と言うが。
画面のTOPから【ショップ】の下にある【オークション】を開く。
すると縦4横2でオークションに出品されているアイテムが表示された。
今はもう普通に腕が動くので視線での操作ではなく普通に画面を指でタップしている。
「おお!ゲームのままじゃんかよ!」
さっきまで死に掛けていた場所に寝転がったままやけにテンションを上げているが、それも仕方がない。
何せ前世で死んでから15年以上ぶりのオークションだ。
そして一番最初に表示されたアイテムを見て。
「うわぁ、、、全然知らない装備が出てるじゃん。てか100,025,000Bって何だよ!こんなもん買えるか!」
思わず大声でツッコんでしまった。
俺の知らない魔剣ベロンガルドなる武器が1億Bを超えていたのだ。
確かに前世でGPOを遊んでいた時にも1億超えのアイテムは存在したのだが、それは強化アイテムであって装備ではなかった。
15年という時の流れが齎したインフレを感じつつ。
「取り敢えず魔法のスキルブックでも買うか。これだけインフレしてたら初級のスキルブックなんて最低価格まで下がってるだろ」
オークション画面の右上にある【ソート】から【スキルブック】、【魔法】、【初級】と指定すると8個のスキルブックが表示された。
全て初級〇魔法の技術書となっていて、〇には火水風土光闇のどれかの属性が入る。
左上から縦に火、水、火、風、右上から闇、水、火、風となっていて。
右下のページ数が15となっているので十分な数が出品されているのがわかる。
恐らくはここに表示されていない光魔法もどこかのページにはあるだろう。
「流石に全部最低価格か。属性はどうするかな。メインは火力の高い火かな」
1ページ目に表示されているスキルブックは全て価格が150,000Bとなっている。
プレイヤーが定価と呼んでいた即決価格が15,000,000Bなので定価の百分の一だ。
初めの頃は定価の十分の一までしか下がらない設定だったんだがそれだと高くて売れないと苦情が入りまくってアイテムによっては百分の一まで下がる設定に変わったんだったか。
何だか懐かしい気持ちになるな。
「っといかんいかん!火のスキルブックが終了間近だからノスタルジーに浸るのはこれを落札してからだ!」
オークションに意識を戻して火属性魔法の技術書をタップすると入札画面が表示された。
ここは入札額と同一のアイテムを複数個出品していた場合に個数を指定する画面だ。
入札額は直接入力も出来るが、【最低入札額】をタップすると現在価格または既に入札がある場合には現在価格から一段上の価格を自動で入力してくれる。
今回は入札が無く、出品されている個数は1なので【最低入札額】をタップして入札を確定させた。
「いやぁ、こんな息子に仕送りをしてくれてた親父とおふくろに感謝だな」
俺の、、、この世界での俺の両親は小さな商会を営む商人で裕福と言える程の金はない。
それでも貴族や裕福な子供がいる学園では交際費も馬鹿にならないだろうからと月に3万Bずつ仕送りをしてくれていたのだ。
結局友達なんて出来なかったし虐められていたから交際費なんて必要無かったんだが。
家を出る時にも10万Bを受け取っていて、寮の部屋代と食事代は授業料に入っているから10万+4ヶ月分の仕送り12万Bで22万Bが手元にあった。
「金が奪われそうだからって画面の中に隠しておいた過去の俺もグッジョブだな」
前世の記憶を取り戻す前の俺は店の手伝いをしている時に偶々商品をお手玉した時に画面の中に入ってしまった事で画面の中に物を入れられる事を知っていた。
但し日本語で書かれた字が読めないので操作方法がわからずに取り出すまでには至らなかったが。
しかし取り出せなくても入れられる事だけは知っていたので、何時か取り出し方がわかる日が来るかもしれないとクラスメートに奪われそうな物は全て画面の中に入れていた。
そのお陰で俺はスキルブックを手に入れる事が出来そうなのだから、過去の俺に感謝せざるを得ない。
因みに画面に金を入れた場合はTOPに所持金が表示されるので、そこから引き出しが可能。
通貨の単位はBでベルと読む。
「っとそんな事を考えていたら無事に落札出来たみたいだな」
TOPの一番上、通知が流れる欄にオークションでアイテムを落札しましたと文字が流れた。
【オークション】に移動して出品されているアイテムの上に表示されている【競売】、【出品中】、【入札中】、【落札分】の中から【落札分】タップ。
火属性魔法の技術書が表示されているのでタップするとオークションの詳細が表示されて確定を押すと表示が消えた。
これでアイテムの落札は完了。
落札したアイテムは【アイテム】に移るので、そこから取り出す事が可能だ。
俺は久々にオークションでアイテムを買えた事が嬉しくて思わず高笑いをした。
どうせ誰も俺の事なんて気にしていないし周りからどう思われようがどうでも良かった。
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作者のモチベーションを上げるなら数字が一番だって昔どこかの偉人が言ってた気がする。