五十六話「誕生日プレゼント」
鬼村宛に妙なものが届くのは年がら年中ある事なのだが、バレンタインやクリスマス等の季節イベント時には、人気作家らしくプレゼントやファンレターが送られてくる、ごく普通の光景が編集部で展開される。殊、鬼村悟の誕生日ともなれば、段ボール五箱ほどの山にもなるのだからファンへの感謝はひとしおだ。
しかし、普通なら他者が行う中身のチェックは、どんな時でもやはり鬼村本人がやるのである。
誕生日だからと言って油断は出来ない。ほとんどが無害なものなのだが、鬼村宛の贈り物に因縁ゼロなんて事は天と地がひっくり返っても起きないのだ。
……私の何人か前の担当は、鬼村宛のプレゼントを開封したせいで会社を辞めたらしいとは、風の噂である。
「これだけお菓子があったら今年はもう買わなくて良いですね」
小太りな上に甘党を宣言している鬼村に送られてくる60%はお菓子だ。消えものは助かる。
「無理だよ、アタシもりもり食べちゃうから」
「節制してください」
「出来たら太ってないのよ。デブなめんな」
何故か自慢げに言いながら、鬼村は明らかに手作りのお菓子を容赦なくごみ袋に放り込んでいく。仕方ないとは言え心が痛む光景だ。
既製品のお菓子は机の上に置かれ、自分で持って帰る分と編集部のみんなでつまむ分に分けられた。今年は変な物が少ないんじゃないだろうか。確認済のプレゼントが積み上がるのを見ながら私は嬉しくなる。鬼村には誕生日くらい奇妙奇天烈を抜きにして、平穏無事に過ごしてもらいたいのだ。なんて、本人に言ったら、笑われるだろうけど。
鬼村は随分少なくなった残りのプレゼントから小ぶりの箱を選んで開封し、そして、ふと動きを止めた。
私は身を乗り出し彼女の手元を覗き込む。
小さなパケの中に、剥いだ爪が一枚入っていた。
……いや、気持ち悪い。気持ちは悪いのだが、過去に同じく剥いだ生爪が贈られてきたのを見た事があったので、そこまでの衝撃は受けない。しかも今回は一枚だ。前は十枚入っていたので、最早ちょっと大きな虫を見たくらいの気持ちである。
しかし、このプレゼントの真に恐ろしいのは爪ではなかった。
箱の底に付箋のような紙が一枚同封されていたのだ。
紙にはただ一言、
1/136
「あは」
鬼村は小さな目を細め、大きな歯をむき出しにして心底楽しそうに笑った。
「小洒落たことすンじゃん」
「え、これ、後136枚爪が送られてくるんですか?」ぞっとして鬼村に問うと、鬼村はニヤついたまま紙と爪入りのパケをズボンのポケットにしまいこう言った。
「ほら、毎月買って組み立ててくやつあるじゃん」
うちでお焚き上げするからほっといて良いよと涼しい顔で言う鬼村に、私は今年もやばいものが送られてきてしまった事実にがっくりと肩を落とした。
私が先んじて贈ったバス用品のラベンダーの香りが鬼村から薄く漂ってくれるのが、せめてもの慰めであった。




