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五十四話「お守りの先に何か居る」

 その日、鬼村宅の門を抜け様に横目で郵便受けに何か届いていないかちらりとチェックした私は、瞬間、驚きのあまり硬直した。

 小さな郵便受けの中いっぱいに、ギッチギチに御守りが詰め込まれていたのだ。

 私は叫び声をどうにか飲み込み、玄関に駆けて戸を開けると同時に飲み込んだ叫び声を吐き出した。

「先生! 御守りです!」

「はあ?」

 素っ頓狂な声をあげながら鬼村が家の奥から現れる。私は状況を説明し、改めて二人で郵便受けの前までやってきた。全国津々浦々の神社をどれだけ回ればこの量のお守りが手に入るのだろうか。カラフルなその郵便受けを見ながら、鬼村が嫌そうに鼻の穴を膨らませた。

「ウゼエー」

 暫く見極めるように御守りの壁を見つめていたが、鬼村は徐に片手をあげると、御守りの中に躊躇なく突っ込んでしまった。彼女の太ましい腕に押し出されて御守りがいくつも地面に零れ落ちる。

 私の目の前で鬼村はどんどんと腕を奥に突っ込んでいき、そしてとうとう、肩まですっかりお守りの中に左腕を埋めてしまった。

 あり得ない。

 何かを探るように突っ込んだ腕を動かしていた鬼村は、不意に真剣な顔になって口の中で何かを唱え始めた。右手で郵便受けのへりを掴む。と、お守りの中に沈んだ彼女の腕が、ぐんと引っ張られた。

 何かが、奥に居る。

 郵便受けの中に引っ張り込まれそうになるのを足を踏ん張って耐えながら、左手は何か掴んでいるのだろう、逆に引きずり出してやらんと鬼村は身をのけ反らせる。腕がゆっくりとお守りの中から浮上してきた――肩――二の腕――肘――上腕――……

 彼女の手首が見えた瞬間、そこに汚らしい男の指が巻き付いているのが見え、私は息を飲んだ。黒く汚れ、爪はボロボロに欠け、関節が三つもある。人ではない。

 このまま引っ張り続けたらこの男が出てくるのか? 郵便受けの中から? 手の大きさは成人男性のそれと同じだ。ならば体も相応の大きさだろう。郵便受けを通り抜けられるわけがない。だが――出てきてしまうのだろう。

 しかしそれ以上は力で敵わなかったようで、綱引きのように行きつ戻りつの引っ張り合いとなった。

 鬼村の呪文が少しずつ大きくなる。

 何を言っているかは分からないが、はっきり音として私にも聞こえるくらいになった瞬間、絡み合う手から煙が上がって男の手が御守りの奥へと逃げて行った。相手を失った鬼村は派手に尻もちをつき、悲鳴をあげる。すぐ駆け寄ろうとしたが、その時郵便受けの中のお守りが炎をあげて燃えだしたので私は悲鳴を上げた。情報量が多い! どれを優先すべきだ!

「台所! 消火器もってきて!」痛みで呻きながら鬼村が怒鳴るので、私は急いでそれに従った。

 消火器を持って帰って来ると、鬼村は痛そうに大きな尻をさすりながら炎上する郵便受けを見つめている。ご近所さんに見られていないのを願うばかりである。

 私から消火器を受け取った鬼村は、疲労困憊でのろのろと火事を鎮火させ、黒こげの郵便受けだったものを見て盛大に溜息をついた。大方、先ほどの異常現象より、買い替えが面倒だと嘆いているだけだろう。

「先生、今の手、幽霊ですか?」

「幽霊だったらこんな面倒な事にはならんのよ。あーあーもー」

 やっぱり彼女は特に説明もしてくれなかったが、例の「鬼村に呪いをかけんとする誰か」なのだろうと予想がついて暗い気持ちになった。

 視線を落とし、焼け焦げた御守りの残骸を眺める。

 僅かに読める箇所が残った御守りは全て、安産祈願の御守りであった。


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