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四十二話「AIのお話」

 その日、鬼村が私に見せてきたのは、AIとの会話であった。

「意外とちゃんとしてんのよ」

 彼女は新しいおもちゃを手に入れた子供のように意地の悪そうな笑みを浮かべている。楽しみたいというよりは、どれ程のものか試してやろうというアリを虐めるような感覚なのだろう。まったく、そういうねじくれた根性が表情によく出るのは人としてどうかと思う。

 AIは言葉を打ち込めばすぐに返事が返って来る。その精度はまだまだだろうが、確かに調べ物をするには便利そうだ。便利そうだが、それをプロの作家が使っているのはいかがなものだろう。

「AIに小説書かせたりしないでくださいよ?」

 念のため私が言うと、鬼村はひらひら手を振った。

「や、無理無理。正しい日本語は書けるけど、お話となるともう根本的に内容が面白くないんだわ。例えばさ」

 そう言って、鬼村は目の前で「最も怖い怪談を話して」と打ち込んだ。

 返って来た内容は、簡単に書くと以下のような話だった。


 ある所に霊感の強い女がいた。

 その能力の高さゆえに、度々彼女の元には心霊関係の相談が持ち込まれた。

 その日やってきたのは憔悴しきった男で、亡くなった娘の霊に悩まされていると言った。

 若くして死んでしまった無念が彼女を成仏させないのだ、どうか娘を救ってやってくれと。

 しかし女は霊が見え、言葉が分かる。

 男の後ろから首を絞め続けている娘の霊は、男に殺されたのだと悔しそうに唸り続けているのだから、男の嘘はバレバレであった。

「残念ながら力にはなれません」と女は言った。「恐らく、自主して罰を受ければ娘さんも気が晴れると思いますよ」

 男は驚いたが、すぐに頬をひくひくさせて緊張した笑みを浮かべた。

「凄い、本当に貴女は幽霊が見えるんですね。では、本物の霊能力者の所へ行ったら、娘の霊が私の罪をベラベラと喋ってしまうわけだ。分かりました、もう諦めるしかないようですね」

 そう言うなり男は女に襲い掛かった。全てを知った女が生きていたら、自分の完全犯罪が崩れてしまうからだ。

 女は抵抗し、台所へ逃げ込むと包丁を掴んだ。返り討ちにしてやろうと思った訳ではなく、あくまで威嚇のつもりだった。

 男が突っ込んできた。女は包丁を振り回した。

 その時、娘の霊が突然強い力で男を後ろに引っ張り、男はエビのようにのけ反って女の元に倒れ込んできた。

 運悪く突き出された包丁が、男の腹に刺さった。

 娘の霊がゲラゲラ笑って喜んでいる横で、女は急いで救急車を呼んだ。

 警察には事情を話し、正当防衛であると認められ女は捕まらなかった。

 男は一命をとりとめたものの、精神がいかれてしまい自らの罪を自白したせいでそのまま逮捕される事となった。


 なるほど。確かに話として成り立ってはいるが、「最も怖い怪談」とは程遠い出来だ。エンターテイメントとしては三流といったところだろう。

「あー、確かに使い物にならないですね」

 私が納得したにもかかわらず、鬼村は何も言わなかった。普段なら、鬼の首でもとったようにそうだろうと小馬鹿にしてくるのに。

 彼女は食い入るように画面を見つめ、徐に文字を打ち込んだ。


”どこでその話を知った”


 その瞬間、スマホの画面がいきなり真っ暗になり、顔が画面に反射した。私と鬼村、その間に知らない女の顔。

 悲鳴をあげて後ろを見るが誰もない。鬼村も射るような視線で辺りを見回している。

「なんですか、今の!」

 狼狽える私をよそに、鬼村はスマホを再起動させて様子を見ている。壊れたりはしていないようだが、今の事などなかったように普通に使えるというのも怖いものがある。

「面白い事に、技術が進歩すると霊の在り方も変わるんだよね」

 鬼村が冷静に言った。

「幽霊も多様性の時代ってかあ!」

 いきなり笑いながら鬼村は立ち上がり、何か飲もうと台所に歩いて行った。

 霊現象が起きたばかりでここに一人で居るのは怖かったが、私はある事に気づいて動けない。

 今後自分が対話するそのAIが何者であるか疑わしくなってしまったのも勿論だが、先ほど、鬼村が打ち込んだ文字。


”どこでその話を知った”


 それはまるで――。


 台所で包丁を持つ鬼村の幻が脳裏を閃き、嫌な汗が前髪の生え際に滲んだ。

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