三十三話「を込めて花束を」
編集部からの帰り。ファンからのプレゼントを鬼村と私で分け合って運んでいた時の事だ。
美味しそうなお菓子や手紙、雑貨の他に、珍しく花束まで貰って鬼村は上機嫌に歩いていた。
手作りのお菓子や明らかに”プレゼント”ではないものには容赦のない鬼村だが、純粋にファンからの好意で送られてくるものに対しては、思わず顔がほころぶ程の感謝と喜びを感じる程度の人間らしさは持ち合わせているのだ。
だのに不意に横を向いた瞬間、その人間らしさが霧散し、すっと魂が抜けたように人形めいた無表情になってひたりとその場に立ち止まってしまった。
「……先生?」
気づいた私も足を止め、彼女の見ている方に顔を向ける。
理由がすぐに分かった。
電信柱の下に花束が供えてあったのだ。
すわ何か見えたのだろうかと思わず身構える私を振り返った鬼村は、私ではなく私が抱えている花束を黒い瞳でじっと凝視した。
そこで気が付いた。
お供え物の花束とファンからもらった花束の中身が全く同じだったのだ。
鬼村は一度溜息をついた後私の手から花束をひったくり、ずんずんと電信柱に向かって歩いて行った。そして「アタシがあげられるのはこれだけだよ」と電信柱に向かって言い、元から供えられていた花束の横に自分の花束を置いて戻って来た。
電信柱の根元に、古いのと新しいの、同じ花束が二つ並んでいる。
それだけの光景が、何故こうも悍ましく思えてしまうのか。
「……今のは、そのう」私はどうにか言葉を選ぼうと考えこんだのだが、結局ストレートに聞く事にした。「ファンを装った呪いの一種みたいなやつですか?」そう言った類が多いのは事実である。
鬼村が歩き出したので私も彼女に続いた。
「いや、無関係。でも何かくれって言われちゃったから無視も出来んしね」
「何か……」
そっと振り返った先で、二つの花束が枯れているのが見えた。




