十六話「繭」
「最近暖かくなってきたから」と鬼村は言った。「うちの敷地内で繭とかさなぎを見つけたら、すぐアタシに教えて」と。
言うまでもない事だが、鬼村の頼み事は基本的に色んな類の”よくない”事が付随している。繭やさなぎというなにか不穏な気配を漂わせるそれらの単語にどんな意味があるかまだ分からないが、嫌な予感を覚えつつも生返事をした数日後、私は彼女の家の中でそれを見つけた。
居間の天井の角に密やかに張り付いている、親指ほどの繭。別段妙なところは見当たらず、一見するとただの蛾か何かの繭に見えるが、とにかく言いつけ通りに鬼村を呼んだ。
急いでやってきた彼女は、暫く繭を見上げた後に徐に言った。
「名が有るか」
数秒間があった。
「応」
繭から低い男の声が応えた。
驚き体を強張らせる私の横で、鬼村ははっと息を呑んではち切れんばかりの笑顔を見せた。ただでさえ高い頬骨の肉がこんもりと盛り上がり、まるで某パンのヒーローみたいだ。
「久しぶりに居たわ、うれしー」
はしゃぐ鬼村に、私は一歩後ずさって問うた。
「あれ、あれ中に何、居るんですか……」
「知らない。アタシああいうの食べないから何が居ても関係ないし」
「えっ、食べ物!? なんですか……!?」
「毒さえなきゃなんでも食えるっしょ」
鬼村は最早心ここにあらずと言った様子でスマホを弄りつつ答える。どこかに連絡しているようだった。
つづく




