十一話「バレンタイン」
鬼村はこれで中々の人気作家である。普段からファンレターとプレゼント(それとバラエティに富んだ謎の呪物)が編集部に届いているが、やはり季節のイベント時期にはプレゼントが集中し、バレンタインに送られてくるチョコレートを筆頭とするお菓子の量は毎年段ボール三箱にもなった。
「よし、仕分けよう」
鬼村は大層甘いもの好きで、無料で無数のお菓子が手に入るこの時期をいつも心待ちにしていた。
しかしいくらエキセントリックな彼女でもある程度の常識は持ち合わせているようで、不特定多数から送られてくる手作りの食べ物だけは絶対口にはしなかった。
「先生、いくらなんでも雑に扱いすぎですよ」
段ボールの中を漁り、手作りを見つけてはレジ袋に乱暴に投げ捨てていく鬼村。流石に良心が痛む光景だ。せめて中を見て、自分の為に頑張ってくれたんだなという気持ちくらいは受け取ってもバチは当たらないだろうに。
だが鬼村は「手作りなんぞ送る方が悪い」ときっぱり言い放ち、その手を止めることはない。「それに、トラウマなんだよ手作り。昔、チョコに毒入れられた事があってさ」
「えっ、本当ですか!?」
「うん。やっぱりバレンタインのプレゼントでね、手作りだったのよ。トリュフっつーの? 丸いころころしたチョコ。なーんか怪しいなと思って、そこら辺の野良犬に一個食わせたら、その犬、死んだんだよ。怖いよねー」
「……先生」
「うん?」
「チョコレートは犬にとって猛毒です」
「え、そうなの?」
ああ、私の業が深まっていく。




