一年後のレーベン王国〜シルビア
お父様が、約一年の昏睡状態の後やっと目覚めた。
ずっと側にいた私はとても嬉しかった。
……それなのに。
「……シルビアか……。セリーナは? あの子はどこにいる?」
お父様が呼んだのは妹。……あの、魔法の使えない出来損ないのセリーナ。
私はそんな父に対して失望した。
「……あの子はもうおりませんわ。あの魔物が襲って来た時に……」
私はこの薄情な父にその事実を伝えた。
父が目覚めた知らせを聞き急いで帰った弟ハインツにも、父は妹の事を聞いた。
……死んでからも、本当になんて迷惑な子!
当然ハインツも不快さを隠しもせず『セリーナは死んだ』と答えたのだが……。
「……違う……、違うのだ、ハインツ。あの子は……セリーナは、目覚めたのだ。……本当の力に。目の前で母が魔物に襲われ倒れたあの時に、あの子は覚醒したのだ……」
……なんですって? そんな馬鹿な事!
……あの魔物騒動の時。私は今度こそあの邪魔な妹を排除する為に逃げ込んだ地下室の扉の魔法の鍵を開け、あの子を屋敷の外に出て行くように仕向けた。
それなのに、せっかく上手くいったと思ったのに! それに気付いたお母様があの愚かな妹を追いかけ共に外へ出てしまったのだ!
つまりはあの愚かな妹のせいで、お母様は亡くなったのだ!
私はまたあの妹を憎悪した。
◇
……セリーナが生まれてから、我が家は変わった。父も母も、長女であるシルビアよりも末娘を優先した。
セリーナが生まれた日に偶然輝く星が流れたとかで、この子が言い伝えにある偉大な魔法使いになると信じられたのだ。
それまで蝶よ花よと育てられたシルビアは、急に両親に相手にされなくなったと感じるようになった。
皆が、幼いセリーナを可愛がる。
いつしか『セリーナさえいなければ……』との思いが強くなっていった。
「お母様! 私今日家庭教師に褒められましたの! 『封印』の力が目覚めそれがとても強いのですって! ……お母様?」
新たな力に目覚め家庭教師にもこの力は稀少な力だと言われた7歳のシルビアは、喜び勇んで母の元へと走りそう言った。……が。
「……ああ、シルビア。ちょっと待って頂戴! 今セリーナが……、まあうふふ、ほらもう『治療魔法』が使えるようになったのですよ! セリーナは実家の父公爵に見ていただいたら、やはり相当な魔力を持っているのですって!それにとても美しい子ですもの。もしかすると3つ年上の王子殿下に見初められてしまうかもしれなくてよ。我が家は安泰ですわね」
セリーナを目に入れても痛くない程可愛がる母。……母は自分が高位治療魔法使いである為に、特にセリーナが一番に治療魔法に目覚めた事が嬉しいらしかった。
家族に認められたくてシルビアが必死になって魔力を磨いても、結局は皆セリーナを見ている。……そう感じた。
……全て、セリーナのせい……!
「シルビア様。……侯爵夫人はまだ幼いセリーナ様に夢中になってらっしゃるだけですよ。閣下がお帰りになられたら、シルビア様の素晴らしい『封印』の能力の事をご報告いたしましょう」
家庭教師が気を使ってそう言って来たけれど、セリーナが生まれてからもう2年、ずっと『まだ幼いから』とセリーナを優先され続けているのだ。
……実のところはシルビアが生まれた時には長兄もやはり寂しい思いをした。しかし彼は自分は兄でありまだシルビアは幼いのだからと我慢した。弟ハインツが生まれた時は唯一の女の子であったシルビアはそのまま周りから可愛がられ続けた。
そして侯爵夫妻はセリーナが生まれたからといってシルビアや他の兄弟を可愛がっていなかった訳ではない。……ただ、弟妹が生まれればそちらにも愛情がいき、それまでと同じように相手が出来る訳がない。
しかしまだ幼いシルビアにはとにかくセリーナのせいで今までの自分の立場がなくなったのだと思えて我慢がならなかった。
そしてその時シルビアは、この日家庭教師に教えられた自分の『封印』の能力を思い出す。
……セリーナさえいなくなれば……。そうだわ、セリーナが、魔法が使えなくなれば……!
「……お父様に、そんな報告などしなくていいわ。……誰にも、言わなくていい!」
シルビアはそう言って家庭教師を帰らせた。
そして、その日の夜。
……シルビアはセリーナの部屋にいた。
今両親は2人とも王宮でのパーティーに行っている。兄も弟も寝ているだろう。ちょうど乳母も居ない。
シルビアは静かにセリーナの顔を覗き込んだ。スヤスヤと眠る、可愛い……そして憎い妹。
……この可愛い顔に傷を付けてやろうか? いやそんな事をすれば『誰が』やったのかと犯人探しをされてしまう。それに傷はすぐに魔法で治療されるだけだ。
シルビアは一つ息を吐いた。目覚めたばかりのシルビアの能力、『封印』。家庭教師はシルビアのこの力は貴重でその力はかなり強いと話していた。
……それならば。
この私の『封印』が、両親がこれほど可愛がるセリーナの能力にどれ程の影響を及ぼせるのか。それを試してやろうではないか。
『試す』、と思いながらもシルビアにはかなり勝算があった。どれ程の強い能力を持つ者でも、目覚めるその前に力を封じられたなら目覚める事は難しいと先程家庭教師から聞いたからだ。
……シルビアは、その日自分のその『封印』をまだ2歳だった妹にかけた。
◇
「セリーナ……。あの子の力が覚醒し、その光で我が国を襲ったあの魔物達が消えた。あの子はやはり、この王国の伝説の魔法使い……。何故か力が目覚めず辛い思いをしたであろうが……。あの子はきっとどこかで生きている。どうかあの子をこの父の元まで連れて来てくれ……」
シルビアがあの時の事を思い出していると、父がとんでもない事を言い出した。
「……なんですって? あの子が……セリーナの力が『目覚めた』? あの子があの魔物達を? ……そんな、まさか!」
……目覚めるハズがない。
シルビアが渾身の『封印』をかけたのだから。それに何? あの子があの大量の魔物達を? それ程あの子の力は大きかったというの!?
「おおシルビア。……本当だ。私が満身創痍の状態で屋敷に戻ったあの時……。ちょうど妻が魔物に襲われ倒れたところであった。それを見たセリーナの魔力が爆発し光が溢れ……、私は気を失った。気が付けば周りにいた全ての魔物が消え去っていたのだ。そして妻にはセリーナのハンカチがかけられ、セリーナ本人の姿はなく私の表面の傷も治されていた。……その後私は再び意識を失った」
シルビアは自分の『封印』が破られた事にも、セリーナがあの魔物達を全て消してしまったという事実にも驚いていた。
それに……、まさか?
「セリーナは、きっと生きている。死んだ母親にあの子のハンカチがかけてあったのが何よりの証拠。……探してくれ、セリーナを……。シルビア、頼む」
……お父様、それを私に頼むのですか。
どこまでも、どこまでも……! 私から大切なものを奪い続けるセリーナ!
シルビアの心に、またしても憎しみの炎が灯った。