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最終話 貴方と共にある未来


 ……結婚式の後はガーデンパーティー。



 セリーナとライナーの気の置けない仲間達、大切な人に囲まれた幸せな時間。



 セリーナは皆に祝われ語らいながら満ち足りた気持ちで、隣に立つ愛しい人ライナーを見た。



 ……後でライナーにはこの結婚式を相談なしで決めた事をきっちり話を聞かなければならないけれど……。彼の様子からしておそらくは周りに勧められ、そしてその周りの皆もいつまでも婚約状態で煮詰まらなかった私達を心配しての事だったのだろう。


 勿論、結婚が嫌だった訳じゃない。

 やるべき事が多過ぎて、そして今が充実していて踏み切れなかったというのが正しいのだろう。


 しかし今、正式にクリストフ陛下が戴冠されそろそろとは考えていないではなかったのだけれど……。だけど私はライナーがこれからの事をどう考えているのかがまだ分からなかった。父にも私たちの仲は認められていたし、何も障害はなかったようだがそうでもない。


 レーベン王国で住むにあたって、私はラングレー侯爵家の持つ爵位の一つ『シュミット伯爵』をいただくことになった。しかし元々は平民だったライナーがどこか貴族となる事を躊躇しているかのように感じていて、お互いの行き先が分からなくて……不安になっていたから。


 けれど、先程の結婚式で彼は『ライナー シュミット』となる事が分かった。……ライナーは私とここで貴族として共に暮らしていく事を決意してくれていたのだ。



 私はそんな風に何となくはライナーの気持ちが分かったつもりではいるけれど、後でゆっくり直接彼の言い分を聞くつもり。


 ……そして私も彼に伝えるのだ。



「前世から、ずっとこの日を夢見てた。……貴方だけを愛してる。私は転生した事に気付いたから前世での愛する大切な貴方に会いに行ったのだもの」、と……。




 ◇



 ……レーベン王国のラングレー侯爵邸。

 すっかり復興された王都の街並みにあって一際美しい広大な屋敷には賑やかな子ども達の歓声が響く。




「……お父様はまた子供達を連れて?」


 ラングレー侯爵家の2階の窓辺から薔薇の咲き誇る庭を眺めながら、セリーナは兄ハインツに尋ねた。


「ああ。庭園で子供たちに修行をつけてくださっている。……全く、あれ程元気になられるのだったら、私もあんなに早く爵位を継ぐのではなかった。父上は筆頭魔法使いとしての全盛期の頃よりもお元気だぞ」


 ぼやく兄に、セリーナは苦笑する。


 セリーナとライナーが結婚して早7年。

 2人は3人の子供に恵まれた。


 そして家族で何度かライナーとエリナの故郷に行き彼の家族に挨拶をした。ライナーの両親はセリとの結婚をとても喜んでくれたが、レーベン王国に共に住む事を勧めても住み慣れた故郷で暮らしていたいと断られた。

 そしてレオンと両親のお墓参りにも行っている。『勇者の墓』として、とてもきちんと管理されていた。



 ラングレー侯爵家の父は、分け隔てなく孫達をとても可愛がってくれている。


 セリーナは子供達とそれは嬉しそうに遊ぶ父を思い出しクスリと笑う。



「まぁ。でもお父様は今は後進の育成に心血を注いでいらっしゃるのですから、それはそれでいいのではありません? 有能な若者達が育てば国の為になりましょう。……子供達も、お祖父様が大好きなようですし」


 ハインツは肩をすくめた。


「まあな。侯爵をされていた時よりも、余程を生き生きと過ごされているよ。……それにしても、レオンはなかなかの魔力の持ち主だな。始めは父上が初孫可愛さに誉めちぎっているのかと思っていたが……」


 レオンとはライナーとセリーナの一番目の息子。銀髪に紫の瞳だが顔立ちはライナーにそっくりだった。

 


「そうは言ってもまだ5歳ですから。ただのヤンチャな男の子ですわ。……まるでライナーの子供の頃のようで心配です」


 セリーナは兄ハインツに前世の話をしてある。


 そして4年前にはハインツも結婚し、嫡男が産まれている。


「ははは。ライナー殿のようか。それは将来楽しみだな。我が家はまだ3歳と幼いがレオン達が大好きなようだ。これからも仲良くしてやってくれると助かる。

……ところで来月の教皇様との会合はこちらから聖国までお訪ねするのだな?」


「……はい。教皇さまは最近腰を痛められたとかで遠出は避けられているので。80を超えられていますしね。また治療魔法使いを派遣させていただいてよろしいですか?」


「ああ、勿論だ。今回の会合ではヒルバート侯爵にも行ってもらおうと思っている。義息子も連れて行く、と張り切っていたぞ」


 ヒルバート侯爵家の嫡男は10年前の大災害で亡くなっており、令嬢が婿養子を取ることになっていた。そして令嬢は父ヒルバート侯爵とも交流のある美しい男性に一目惚れした。……それが、ダリル。


 最初は年齢や立場が、などと言って逃げていたダリルだったが年齢差はライナーとセリーナと変わらなかったし、彼も本当はとある王国の第五王子。そして父であるヒルバート侯爵がダリルの人となりを認めていた。


 そしてその内とうとうダリルも、令嬢の一途な想いに落ちたのである。


「そう、ダリルが。ヒルバート侯爵もダリルに道筋を付けてくださっているのね」


「それを言うのなら、アレンもだぞ。……いや、今はディンケル伯爵か」



 アレンはレーベン王国で手広く商売をしているディンケル伯爵家の伯爵令嬢と結婚した。アレンの持つ特殊能力『空間魔法』で相手と話が盛り上がったらしい。……アレンがまるでダリルのようなハキハキとした姐御タイプの女性が好みだとは思わなかったが、2人で上手く商売を回しているようだ。



 そう、ダリルもアレンもこの国に来てそれはまあたくさんの女性達にモテた。……いや、彼らは冒険者時代からモテていたが、あの時は適当に受け流していたようだった。ここで愛する女性と巡り会えてくれて良かった、とセリーナは心から思っている。


「2人共この国に来てからもモテモテだったものね。でも良いお方とご縁があって本当に良かったわ」


 などと他人事のように言うセリーナだったが、夫であるライナーも勿論この国でもモテていた。


 ライナーは初めから明らかにセリーナという特別な存在がいると分かるからかダリルやアレン程は令嬢が寄ることはなかったが、それでもアピールしてくる強者のご令嬢はいた。まあそれもライナー自らがバッサリと断っていたが。


 

「ああ……。しかしライナー殿を誘惑しようなどとしたあの令嬢は本当に命知らずであったよな。まあ陛下も私もあの手の女性は好かんが、いつお前がキレてこの国が再び危機に陥るかと2人で気が気ではなかったのだぞ」


 ハインツは当時の事を思い出して身震いをした。

 セリーナの力を得てやっと平和で安定して国になってきたと思っていたら、セリーナとライナーの間に割り込もうなどという不届きな女性が現れ思わぬ国の危機が訪れたからだ。

 クリストフ国王と相談し本気でその強者の令嬢を家ごと排除しようと考えたくらいだった。



「……そのような事はいたしません。私はライナーを信頼してますし……。もし万一彼が他の方に心奪われるのならば、私がさっさと彼の側を離れるだけですから」


 セリーナはそう言ってフイと顔を逸らした。


「……ッ俺がッ! そんな事をするはずがないだろうッ!?」



 所用で遅れてやって来たライナーが、ちょうどセリの物騒な台詞を聞いて慌てて入って来た。

 セリーナはライナーの様子に少し驚くが、当時の事を思い出しスンとした様子で言った。



「……勿論、私はライナーを信じています。だけど万が一、という事もあるでしょう?」


 セリーナがそう言った隣で、兄ハインツは『セリーナ! そんな煽るような事を言ってはまたライナー殿は……!』と言って止めようとしたが、時既に遅し。


「ッ! セリッ! 俺はセリ一筋だッ! セリだけを愛してる!」


 そう言ってライナーはセリーナを抱きしめた。


「ちょっ……! ライナー! お兄様もいるのに!」


 セリーナはそう言ってライナーから逃げようとするが、ライナーはがっちりと抱き締めて離さない。


「……セリ。俺にはセリだけだ。それだけは絶対に分かっておいてくれ」


「……ライナー……」



 セリーナとライナーは見つめ合った。


 そして、ハインツは静かに部屋を出て行く。

 扉をパタンとゆっくり閉めた後、ハインツはため息を吐いた。


「アレが始まると暫くは2人の世界だからな……。セリーナも本当に嫌ならば魔法で離れればいいものを。……結局は2人はアレを楽しんでいるのかもな」


 そう言いながらハインツは仕方のない妹だ、と微笑みながら父と子供達の所へ向かった。




 セリーナとライナーは暫く2人の世界に浸っていたが。


「……ライナー。そろそろ時間だから出掛けましょう? 観劇の後、最近話題のレストランでお食事をするのでしょう?」


「……ッああ。明日はセリと再会してちょうど10年の記念日の前祝いだからな。明日はダリルとアレンと昔みたいに飲み会だ」


 ライナーはそう言ってセリーナの頬にキスをして嬉しそうに笑った。

 貴族として随分と慣れては来たが、やはり冒険者の頃の仲間との愉快な時間はとても大切だったから。それが分かるセリもクスリと笑う。


 しかし実はもう一つ、セリーナには今日も特別な記念日だった。


「……ふふ。実は今日も特別な日なの。私がセリとして初めてライナーと会えた日なのだから」


「……えっ!? セリと会ったのはイルージャのあの薬草がいっぱい生えてる所で魔物が襲って来た後治療魔法を使った時だろ?」


 ライナーが驚いてセリーナを覗き込んできたので、笑顔で答えた。


「……その前日にね。イルージャの街にやって来た私は入国の行列で門番と揉めるライナーを見かけたの。一目で貴方だと分かったわ。そして、また逢えた事が奇跡的で嬉しくてたまらなかった」


 ライナーは目を見開き驚いていたが、顔を赤らめて視線を横にやりながら言った。


「……その後、セリは冒険者ギルドに居ただろう? 俺もギルドに居たんだけど……。可愛い子がいるなって、横目で見てた。その時はセリは男の子に見えたけど妙に気になってたんだ……。あの時は、ダリル達に冷やかされるから言わなかったんだけど……」


「え……」


 ライナーも、あの時私を見ていた? 勿論その時はエレナの生まれ変わりだなんて知らなかったんだろうけど……。


「だから、次の日あの薬草の場所でまた会えた時。一緒に居たいと思った。仲間になる話になった時も絶対に逃したらダメだと思った。それからもエレナの生まれ変わりって聞く前から、セリの事守りたいって思ってた。……多分、心の奥で何かを感じてたんだと思う」


「ライナー……」


「セリ。……生まれ変わって来てくれて、ありがとう。……またそばに来てくれてありがとう。そして……、これからもずっと一緒に生きていて欲しい。愛してる、セリーナ」


 セリは胸がじんわり温かくなって、泣きたいくらいに幸せだった。


「ライナー……。エレナを愛してくれてありがとう。そして、私を見つけてくれてありがとう。ずっと、愛し続けてくれてありがとう。これからも、ずっと一緒にいてね。愛してるわ、ライナー」



 ライナーとセリーナは見つめ合い、強く抱き締めあった。


 ……その時。



「セリーナ! 御者が待ちくたびれてるぞ。もう観劇の開演時間なのだろう? 父上が子供達を引きつけてる内に出掛けないと、ついていくと言い出してまた大騒ぎになるぞ?」



 兄ハインツの声がかかった。


 

 セリーナとライナーは目を見合わして、そうだ大変だと慌てて出掛けたのだった。


 ……2人の手は、しっかりと繋がれていた。


 


《完》








 これにて二人のお話は終わりとなります。これから仲間や家族と共に幸せに暮らしていく事と思います!


 お読みいただき、ありがとうございました!


     本見りん



 


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― 新着の感想 ―
はぁ〜おもしかった! 一気に読んでしまった。満足。 ありがとうございました(^ν^)
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