35 レーベン王国へ その壱
「……じゃあ、セリは定期的にお父様達の様子を見に行くつもりなのね」
ダリルは真剣な顔でセリを見て言った。
セリはレーベン王国の家族の今の状況や、父と兄は今幸せならば国に帰ることはないとまで言っていた事、そしてそれを聞いた上で偶に彼らの所に行こうと思っている事をダリルとアレンに話したのだ。
「はい。……とは言ってもまずは今回は様子見なので、兄には定期的に帰るとまでは言ってないんですけど。そして会うのは家族だけとは言ったので、それがどうなるのかも確認ですね」
2人はそれに頷くが、ダリルは少し心配そうに片手を顎に当てて言った。
「……でも、レーベン王国の王家がセリの存在を知っているっていうのはちょっとまだ不安要素よね。幾ら王子が納得したようだとは言っても国の指針を決めるのは国王でしょう? それに今のレーベン王国の情勢ならそれを知った他の貴族達も勝手に動き出さないとも限らないわ」
確かに今回のセリーナの捜索は父と兄の『帰らなくても』という発言から、2人から言い出した事とは思えない。おそらく今回はクリストフ王子が主導したのだとは思うが、事実を知れば誰もがその大いなる魔法使いを手に入れたいと考えるだろう。
「……そうなんですよね。だから敢えて時々レーベン王国に帰り、その窓口として兄様達に頑張ってもらおうかと。そして兄様は私という存在をカードとして使えると知らしめて動いてもらえたらと思うんです」
「あー成る程、確かにそうだね。そうすればセリという大きな力を持つお兄さん達の立場も上がるし動きやすい。こちらは切り札を持ってるんだ! ってチラ見せしとくって事だね。そしてセリも敢えて近くであちらの王家の動きを見張った方が安心でもある……、まあ諸刃の剣だけど」
とアレンは頷きつつ言った。
そして、ダリルはセリの様子を見ながら尋ねた。
「ねぇ? セリ。その……お姉さんは? お姉さんは今王宮に幽閉されているんでしょう? 勿論、それはそうされて仕方ない事をしたのだから捕まって当然なんだけど……」
「ああ、僕もそれを思った。多分、レーベン王国はセリのお姉さんを……交渉に利用しようとするんじゃないかな」
アレンもダリルに続いた。
「……成る程……」
セリは呟き頷いた。
「……確かにな。じゃ、その辺も視野に入れて、再来週セリの父親の誕生日祝いに行くとするか!」
そしてライナーの掛け声で4人は動き出したのだった。
◇
「ハインツ。……本当に、今日はセリーナがここに来てくれるのか?」
朝からソワソワとし、父は何度も同じ事を聞いていた。
「……父上。朝から何度同じ事を聞くのですか。セリーナは約束を守る子ですから、今連絡がない以上は必ずここにやって来ますよ」
ハインツももう何度目か分からない同じ答えを返す。
「いやしかしだな……、……え……?」
ラングレー侯爵家でかつて家族が集まったこの部屋に。キラキラと光が集まり人の形をとった。
……現れたのは、薄紫のワンピースを着た銀の髪の少女と赤髪の青年。
「ッ……! セリーナ……ッ!」
あの日を最後に見る事のなかった愛しい娘。
「お父様?」
セリは久しぶりに父のその顔を見た。
そして車椅子に座り昔よりも随分と痩せた父親を見て悲しげな顔をした。
「……お父様。長い間ご無沙汰してしまって申し訳ございませんでした」
……もう少し早く、自分の力が目覚めていたのなら。父はこんな傷を負うこともなく、兄も母も無事でいてくれたのだろうか。
セリの中にどうにもならない思いが渦巻いた。
「セリーナ。……よく、顔を見せに来てくれた。決意してこの国を出たであろうに、我らが不甲斐ないばかりに済まなかった」
父はそう言って頭を下げた。
「お父様……」
頭を下げ続ける父にセリがなんと声をかければと考えていると、一緒に来たライナーが「これを」と持っていた箱を示した。
「! ……お父様。私、今日はお父様のお誕生日のお祝いに参りました。これは、教皇さまオススメのお店で用意してもらった聖国の有名なお菓子です。お父様は甘いものがお好きだったでしょう?」
セリはそう言ってそれを父の横に立つ兄に渡す。兄ハインツは「……ありがとう」と小さく笑って受け取った。
侯爵はこれ以上謝っていてはセリーナに気を遣わせてしまうと気付いたのだろう、そして甘いものと聞いて少し嬉しそうに笑った。
「……ありがとう、セリーナ。
ハインツから元気そうだったとは聞いておったが、元気な顔を見られて安心した。お前は今きちんと食べて暮らしているのだな」
侯爵はセリの顔を見て安心したように笑う。……とりあえず父は信用してもいい、そうセリは判断した。
「はい。仲間と一緒に仲良く暮らしています。
……お父様。今のレーベン王国と我が家の状況をお話しくださいませんか」
侯爵とハインツは思わず目を見張る。
「……状況、とは……」
侯爵は少し困惑した表情で言った。しかしセリははっきりともう一度問いかけた。
「今、王家や貴族達は私という存在をどうしようと思っているのか。……お姉様が捕らえられその理由はどこまで国として明らかにしてそして我が家の立場はどうなっているのか、などです」
姉が幽閉されたその理由が周知されているなら、ラングレー侯爵家は相当追い込まれた状況のはず。だが屋敷の周りにおかしな状況は無いようだから、姉がした事全部を世間に公表してはいないのだろう。もし国中に公表したならば、あの災害を抑える手立てを持ちながら放置したとして世間の人々は我が家を責め、今このような平穏な状況では居られないはず。
……そして王家や貴族達の動向は? その辺りの状況を聞いておきたいとセリは考えていた。
侯爵とハインツは悩んだようだったが、ハインツが語り出した。
「……姉上が幽閉された事は、今のところその真の理由は王家だけが知っている」
「……ハインツ」
侯爵は息子を止めようとした。
「父上。もうセリーナの存在は王家に知られております。……そして貴族達の間でも密かに噂になっております。セリーナに全て伝えねば余計に彼女が危険な事になりかねません」
「むう……」
息子に説得され、侯爵は押し黙った。




