26 『封印』を持つのは?
「……その古い文献には、『封印』の能力を持った者が魔力が目覚める前の……子供の能力を、ある意味『封印』した、という事が載っていたのです」
教皇が真剣な顔でそう言うと、セリとライナーはゴクリと息を呑んだ。
「私の力も、『封印』されたという事なんですね……。ッ! それが2歳の時、という事……。2歳の時治療魔法が目覚めたその後に、私の力は封じられた……」
教皇は頷き……、そして少し厳しい目をして聞いた。
「そういう事になりますな。……セリ様、知っている限りで良いので教えてくだされ。その時貴女の家には誰が居たのかを」
「その時の、私の家に、ですか……」
セリは少し考える。
その隣でライナーは教皇がどうしてそれを尋ねたのかを理解していた。そして自分もその『誰か』を探すべくセリの答えを待つ。
「……私の家族は、両親と兄が2人、姉が1人です。一番上のお兄様は私と8歳違いでそれほど関わる事はありませんでした。お姉様は5歳上。二番目の兄様は2歳上です。あとは離れて暮らす祖父母達、です」
縁戚の方や屋敷で働く人達もお話しした方がいいかしら? と思って教皇を見るもういいと首を振られた。
「身近なご家族はその5人。離れて暮らすお祖父様方はよく家に来られていたのですかな?」
セリは『いいえ』と首を振る。
「……ならばお祖父様方は外して良いでしょう。……セリ様。私は今回の件は非常に身近な人間にしか出来ないと考えております。……ああ、セリ様のお家に乳母や騎士がおりましたならば、その者も多少は怪しくはなっては参りますが。……特にその頃に不審な辞め方をしたりする者はいたのでしょうか?」
「……いいえ。我が家で働く方は皆古くからいる方ばかりだとは聞いてます。……あ。でもその頃お兄様達の家庭教師の方が辞めたとは聞いた事があります。お兄様から不出来な私がいるから辞めたに違いない、とよく言われましたから」
セリが当時を思い出しながら言うと、前から殺気があがった。え。と思って見ると、何故か教皇とライナーの2人からそれは出ていた。
「!? 2人共、どうなさったんですか? 殺気がダダ漏れですよ!?」
セリは驚いて問いかけ、2人はハッと我に返る。
「いや……。セリ、その兄はまさかセリにずっとそんな事を言っていたのか? 他の兄妹や、両親も……?」
ライナーはセリを労るようにしながら聞いた。
「え? ……あぁ、御免なさい、心配かけちゃったんだね……。そんな分かりやすい嫌味を言うのは二番目のハインツ兄様だけ。上のフォルク兄様は困った顔で見てるだけだったしシルビアお姉様は……、慰めてくれてるのかどうか分からない事が多かったかな。お父様はいつも『努力しろ』でお母様はずっと私を心配してた」
セリはそう言って切なそうに笑った。
「セリ……」
ライナーはそう言ってセリの肩をポンポンと優しく叩いた。
「……そうでございましたか。セリ様。ハッキリ申し上げますと、私はその家族の中の誰かがセリ様の魔力を封じたと考えます」
教皇はセリ自身が家族に対して悪印象を持っていない事に少しばかりの危機感を感じて、考えていたことを話すこととした。
おそらくセリは家族に対して、今まで自分が魔力ナシで迷惑をかけて申し訳ないと思っているだろうが、憎んだりはしていない。
もしこの状況で家族がセリの目の前に現れたなら。それがセリの力を封じた張本人だったとしたなら、セリはそれに気付かないまま再びその悪意に晒される事になるかもしれないのだ。セリがその身内に油断して何か不測の事態になってはいけない。そう教皇は考えた。
「私の、家族が私の力を……? そんな、なんの為に……」
セリはかなり戸惑っていた。
「それは分かりません。貴女の強大な力に気付きそれを恐れたのか……、兎に角、これはかなり身近な者の可能性が高いと考えます」
教皇にそう断言されたが、セリはある事実に気付く。
「ッ! そんな……。ッ! ……でも、我が家で『封印』の力を持つ人は居ませんでした。やっぱり家族じゃないんですよ」
セリがそう言うと、教皇とライナーは目を見合わせる。
「……確かにそれは不思議だよな。その『封印』っていうのは貴重な力なんだろう? セリ。レーベン王国で今その能力を持つ者は居たのか?」
「……私は聞いたことないわ。というか、私は身近な人か余程有名な人の能力しか分からないかな」
ライナーの問いに困るセリに教皇は助け舟を出す。
「まあそれはそうでございましょうな。国の中枢の者でない限りはその辺りは把握は出来ないでしょう。……そしてセリ様の家族でその力を表に出す方は居なかった、という事ですな?」
しかしその教皇の言葉にもセリは困りながら答えた。
「……我が家に『封印』の能力を持つ人が居る事は教皇さまの中では絶対なんですね?
……ええ。我が家では父は国の筆頭魔法使い、母は公爵家出身の高位の治療魔法使い、フォルク兄様は次期筆頭だと期待されておりました。ハインツ兄様とシルビア姉様は普通、と父が言ってましたね。でも父は随分と上を目指す人でしたから。その中で『封印』を持つとしていた人はいませんでした」
セリの答えに教皇は頷き、ライナーは驚いてセリを見た。
「!? セリ、父ちゃんはレーベン王国の筆頭魔法使いなのか!? 母ちゃんは公爵家……高位の治療魔法って事は例の身体の欠損まで治せるってヤツか!?」
興奮するライナーにセリはコクリと頷く。
「え! すげぇ! んで兄ちゃんは次期筆頭かー。格好いいな!」
「ちょっと落ち着いて黙らんかライナー。
……うむ。セリ様。ご家族皆様が相当な力の持ち主。どなたが『封印』を持っていてもおかしくはないと私は思います。……セリ様。私は貴女様の身の安全を守る為にもその真犯人を明らかにすべきと考えております」
「真犯人を……」
セリはそう呟いたまま暫く考え込んだ。
2人はそのままジッとセリの答えを待つ。
そしてセリは顔を上げた。……そして真っ直ぐに教皇を見た。
「教皇さま。……私の家族に犯人がいるかも知れないという事は、よく分かりました。
……真犯人は、明らかにしなくていいです。悲しくなるだけなので……」
そう言ってセリは切なそうに笑った。
ライナーと教皇はそんなセリを心配そうに見た。
「セリ……」
「うん、大丈夫だよ。ライナー。教皇さまも、ありがとうございます。そこまで考えてくださって。……私の実の祖父母はとても厳しい方達だったから、教皇さまは本当のお祖父様みたいでとても嬉しいです」
「ッ! セリ様……。どうぞ私を祖父と呼んでくだされ。私もセリ様を、可愛い孫のように思うておりますぞ」
「教皇さま……」
「セリ。俺は、これからずっとセリを守るから。今は俺たちが家族だからな」
「……うん。ありがとう、ライナー」
教皇はセリとライナーを見て頷いた。
「……セリ様。ライナー。私は明日大教会主催の誕生の祝いを受けた後、先日お話ししたレーベン王国との会合に向けて出立いたします。会合の予定地であるレーベン王国の隣国の大教会にはおそらく12日後に到着予定です。……それに、参加されるお覚悟はありますか?」
セリとライナーはその教皇の提案に静かに頷いた。
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