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2 冒険者ギルド



「ッだ――!! 本当に、あの門番はいけすかね――! いちいちケチつけて来やがって、この街に住む冒険者に毎度身分証の提示を求めんじゃねーっての! 俺たちゃ命張って魔物狩ってんだ!」


 冒険者ギルドの受付近く。赤髪の青年が仲間達に愚痴を吐いていた。その文句を周りの者は嫌がりもせず根気よく話を聞いてやっている。おそらく青年は仲間達にとても好かれているのだろう。


 そんな彼らの様子をチラリと窺いつつ、セリは受付に向かい以前いた街で作ったギルドカードを見せた。冒険者ギルドが発行するギルドカードは世界共通。どこの国でも通用する。



「……あの。今日この街に来たばかりなんですけど、僕にも出来そうな仕事はありますか?」



 セリのカードは一般的な駆け出し冒険者Fランクだった。12歳から冒険者になれるこの世界には上からSABC…Fのランクがあり、1番下のFならば薬草採取くらいだろう。


 セリは自分が魔法使いだと明かすつもりはない。表向きは昔から使えていた弱い『治療魔法』だけを使うつもりだった。



「それなら、『薬草採取』の依頼があるわ。街を出て左手すぐの林周辺にたくさんあるらしいから行ってみるといいわ。ただし、今日はもう遅いから明日以降にね」


 親切な受付嬢が詳しく教えてくれ、更にオススメの宿も教えてくれたので今日はそこで身体を休めることにした。


 受付嬢に礼を言って出て行こうとしたセリは、ギルドに繋がる飲み屋で大声で話す赤髪の青年をもう一度チラリと見た。


 青年はもう先程の門番との揉め事の件は気が済んだのか、今度は今日狩った魔物の話で盛り上がっていた。

 なるほど、あの切り替えの良さや屈託のなさそうな所が仲間達に好かれているのだろう。



 ……ああいうところは、昔と変わってない。


 セリは少し切なく名残惜しそうにその様子を見てからギルドを出た。





 翌日。

 セリは昨日ギルドの受付嬢に教えてもらった場所で薬草摘みをしていた。情報通りたくさんの薬草と……たくさんの、おそらくFランク冒険者たち。


(これだけたくさんの冒険者が薬草を摘み取ってもまた生えてくるなんて、ここは癒しの魔法でもかかっているのかな? この近くの森の奥にはダンジョンもあって魔物もたくさん出るらしいし、持ちつ持たれつの関係なのかもね)


 魔物が出て、怪我人もたくさん出るので薬草もたくさん必要となる。自給自足が可能なんて素晴らしい。そう思いながら目当ての薬草を選り分けていく。ここにはせっかく良い薬草がたくさんあるのだし、きちんと選別して組んで渡せばより良い値段で買い取ってくれるだろう。


 セリが周りのFランクの子供達と話をしながら薬草取りをしていると、林の向こうからガサガサと何かがやってくる気配がした。誰かが林の方にまで行っていたのか? と皆気にも留めずにいたのだが――。



 グルル……ッ


「ッ!!」

「う、うわぁっ! ま、魔物だぁっ!」


 林の中から突然大型のネコ科の魔物が現れ、近くに居たFランク冒険者たちに襲いかかって来たのだ。


 ――その時。


「こぉんな、街近くの場所にまで魔物が来てんじゃ、ねーよ!!」


 そこに現れたのは、例の赤髪の青年とその仲間たち。彼らはいとも簡単にその強そうな魔物を退治した。……いや、赤髪の青年が1人で一刀両断にしてしまったのだが。


 そして、後には真っ二つになった魔物と何人かの怪我人。


「あー、大丈夫か? 誰か! この中に治療魔法使えるヤツはいねーのか? もしくはポーションはあるのか?」


「ライナー、治療魔法が使えたら薬草採取なんてしてないよ。それに薬草摘みに来るのにポーションは持ってこないでしょ。……でも、困ったな。さっきウチもポーションを使い切ってしまったんだよね。うちらの中にも治療魔法使えるヤツは居ないし……。薬草だけでなんとかなるか?」


 赤髪の青年ライナーとその仲間達は治療魔法の使い手なしで魔物狩りをしているらしい。よく今までなんともなかったものだ。

 そう少し驚きながらもセリは一応手を挙げた。



「……僕。少しなら使えます」


「「「え!」」」


 急にライナーとその仲間達が一斉にこちらを向いたのでセリは驚いたが、今はケガ人の治療が先だろう。


 そう思い、セリは急いでケガ人達の近くにいく。魔物の爪でやられた傷の者が殆どのようだった。


「……悪いけど、僕の治療魔法はとても弱いから、応急手当てくらいにしかならないとは思うけど……」


 そう言いながら、セリはケガ人達に手をかざし、

治療ヒール

と唱えた。


 するとその手から優しい光が溢れ、いつの間にかケガは治っていた。

 セリはケガ人達にそれを繰り返し、全ての治療を終える。



 そしてそれを見ていたライナー達は……。


「……ッす! すっげえっ!! お前、すげーじゃん! 治療魔法が使えるんなら、薬草採取やめてそっちでやっていった方がいいぜ?」


「ホントだよ! というか、うちのパーティーに来ない!?」

 

「いや本当に、来てくれたら凄く助かるんだけど!?」


 ライナーとあと2人の仲間たちは真剣にセリに誘いをかけてきた。周囲のFランクの人々もすごいすごいと大歓声だ。


「え、いえでもわ……僕の治療魔法は凄く弱くて……。表面上のケガくらいしか治せないし、骨折や身体の欠損などになったらとても無理だし……」


 セリは慌てて自分が少しの治療しか出来ない事実を説明するが、周りは皆驚いた。


「お前、何言ってんだ? 骨折治療は聖女くらいしか出来ないのは当たり前だし、身体の欠損なんてそんなの治せる訳ねーだろ? お前くらいの治療魔法の使い手なら、十分冒険者でやってけるレベルだ。というか、この国で治療魔法使えるヤツは少ないからな。是非ともウチのパーティーに入って欲しい」


「へ?」


 セリは意外な話を聞いて、心底驚いた。



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