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14 教皇と聖女


「……これは、誠に申し訳ない。このような不届き者は教会の『聖女』にあらず。今すぐ処罰するのでご容赦くださらぬか」



 そこに居たのはマリアも数える程しか会ったことがない、教会の1番の権力者。教皇猊下だった。



「んなっ!? まさか、教皇様……! あの……これは……これは違うのです! この者達は教会の命令に従わぬので、私は心ならずもこのような態度を……! 今の『勇者』は力が足りず、前回の勇者の力強き仲間であったライナーに助けを求めただけなのです!」


 マリアは教皇の突然の出現に、大慌てで言い訳をした。


「――黙りなさい。今の『勇者』側からも苦情を聞いておる。『聖女』がやたらと前回の『勇者』と比べ『役立たず』と罵ってくる、仲間達との間を壊してくる、とな」



 教皇はマリアを見て厳しく言った。マリアは顔色を悪くしながら尚も反論する。


「彼らの力が前回の勇者レオンに及ばないのは事実でございます! 私も彼らが充分に力を振るえるよう努力致してまいりましたが……。今回その解決の為に、前勇者を導いたライナーを仲間に、と……!」


「『勇者』もライナーも嫌がっているのに? それが彼らの為になると本気で思っているのなら、あなたには『聖女』は向いていません。

……そして、あなたには別の容疑もあります。それは前『勇者レオン』の殺害。あなたはレオンをあの凶暴なヒュドラの巣でこのライナーと喧嘩をする様に仕向けましたね?」


 先程教皇に呼びかけたライナーの仲間の1人の小娘が言った。14.5歳位の男の子の様な格好をした小娘。生意気にもマリアが『聖女』に相応しくないと言ってきたばかりか、もうすっかり忘れかけていた思わぬ罪の容疑まで掛けてきた。



 ……5年前、マリアとレオンは恋人だった。いつしかマリアはライナーの方が気になるようになったがライナーには全く相手にされなかった。2人共に険悪になってきて、マリアはどうにもならずに2人を危険なヒュドラの巣に誘い込み喧嘩するように仕向けた。その時は2人ともヒュドラにやられてもいいと思った。

 ……だがライナーは生き残り姿を消した。マリアはそんなライナーがますます欲しくなってしまったのだ。



「何を言っているの! なんて失礼な娘なのかしら! 教皇様! このような者の申す事を真に受けてはいけません! これは『聖女』を……いえ、教会全体を貶める行為ですわ!」


 マリアはショックを受けたように、教皇の側に近寄ろうとした。


 そこに、ライナーが道を塞ぐ。


「教皇様に近付くな。お前の容疑は晴れていない」


 マリアは縋るような目でライナーと教皇を見たが、2人がその哀れな『聖女』に同情する様子は無かった。


「……もう1人の『勇者レオン』の仲間が、全て白状したのよ。5年前、『聖女』に脅されヒュドラの巣にレオンとライナーを誘導したとね。彼は今でもあなたを『悪魔』と言って怯えていたわ。本当にコレが『聖女』だったなんてねぇ……」


 ダリルがそう言って軽蔑した目でマリアを見た。


「この度は、ご迷惑をおかけし誠に申し訳なかった……。『聖女マリア』は引退させ罪を償わせる。二度と表舞台に立たせないと約束しよう。しかし、この事が世間に明るみに出れば教会の権威が失墜してしまう。どうか、『聖女は病死した』という事でご容赦いただきたい」


 あろうことか教皇はライナー達に頭を下げた。マリアはその事と教皇が言った言葉の内容に驚き反論しようとしたが……。


 ……身体が、動かなかった。

 おそらく、これは身体拘束の魔法。


 冷や汗をかきながら視線だけを泳がせ周りを必死で見ると、そこには冷たくこちらを見る銀の髪の少女の姿があった。彼女のその印象的な紫の瞳から静かな怒りのオーラが見えた気がして、マリアは生まれて初めて心から恐怖した。


「……教皇さま。どうか、彼女を厳しく罰してくださいね。『勇者レオン』を死に至らしめた、この人を」


 少女は静かにそう言い放った。教皇は彼女に頭を下げる。


「それから、『勇者レオン』の名誉の回復もお願いします。レオンは仲間を助ける為に命を懸けてヒュドラと戦った、と」


「承知いたしました。……セリ様。また何なりと、この爺をお呼びくださいませ。教会はあなた様を心より歓迎いたします」


 教皇は正式な礼をしながらそう言った。


「――ありがとうございます。では、2人とも聖国の大教会にお送りしますね」


「おお、セリ様。なんと素晴らしきお力……! もう少し、もう少しだけお側でそのお力を見せてはくださらぬか……! 是非にこの爺に……!」


「あ、うん。さよなら」


「セリさ……」


 シュンッ……!


 2人の姿がこのギルドから消えた。



 ちなみに、マリアが現れた時からここは周りから見えなくしてあった。




「ふあーッ! マリアのヤツ、何でこんな事になってるのか訳が分からないって顔してたぞ! それにしても、本当にアイツがレオンの死に関係してたなんて……」


「本当だね。しかもその頃まだ17.8歳だろう? しかもその理由が痴情のもつれって怖すぎるんだけど……! ていうかセリ、よく『教皇様』を味方につけられたね!? どんな手を使ったの?」


「馬鹿ねー、アレン。あの教皇様のお顔見なかったの? あれはセリに陶酔し切ってたわね。教皇様の前でセリの()()()()を見せてやったのね?」



 3人の期待の視線を浴びて、セリは困った顔で答えた。


「うーん……。私も教皇さまの前で色んな魔法を見せつけて少し驚かせて味方になってもらうつもりだったんだけどね? 私が教皇さまの目の前に転移した時点で、もうあんなキラキラした目で私のこと見てたの。『転移』なんて、教会の古い記録でしか見たことないって、何でもするからもっと力を見せてくれって凄い勢いだったの。だから、『転移』させるからこれから起こる事をよく見て欲しいってお願いしただけ。そうしたら物凄く喜んじゃって……」


「あー…、うん。凄く、喜んでくださってたね。最後あちらに飛ぶ時もセリからもっと魔法を見たいって凄く名残惜しそうだったし。あ、もしそれで『聖女』に指名されちゃったりしたらどうするの!?」


 アレンが不意に思い付いた可能性を聞いた。


「あ……それ、もう言われたの……。絶対イヤだって言ったら、分かったって言われたから大丈夫なのかな」


 彼らはついさっきまでここに居た教皇を思い出す。どこから見てもまるで孫娘を溺愛する好々爺のようにしか見えなかった。つまりはセリにメロメロで、何でも……は言い過ぎだがとりあえず嫌だという事をさせる事はないのではないかと思われた。



「うん、まーそーなのかもな……。俺は昔『勇者』一行として一度だけ教皇様にお目通りしたけど、あの時はもっと厳格なじーさんに見えたんだけどな……。 

とにかく、セリに無理な事言ってこないんならそれでいい」



 ライナーの言葉に皆が頷いた。




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