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1 サンタナ帝国へ



「――ふう。やっとサンタナ帝国かぁ」


 入国審査の為、セリはギュウギュウに押し込まれた満員の乗合馬車からその地に降り立った。そして「うぅーんッ」と思い切り身体を伸ばす。

 ずっと狭い座席で座っていたから、身体中がギシギシいっている。


 10代前半の少年姿のセリは、同じように馬車から降りた人々が入国審査の列に並んでいる事に気付き慌ててその後ろにまで走って並んだ。

 今日は風もなくいいお天気だ。この異国の見知らぬ地の雰囲気にセリは不安よりもどこか楽しみでドキドキしていた。



 ここはサンタナ帝国の西、隣国との国境の街イルージャ。

 近くにはダンジョンがあり山や森には魔物もたくさんいる。それを目当てに冒険者たちが集まり更に商人達や人々が集まるとても賑やかな栄えた街だった。

 その大きく立派な正門の異国情緒の漂う雰囲気を、セリはキョロキョロ見回しながら味わっていた。



 ――実はセリには、幾つか秘密がある。その一つは、『転生者』であるということ。

 1年ほど前に前世を思い出したセリは、自分が死んですぐに生まれ変わったことを世界の国々や歴史などから気付いた。それで前世の自分の家族や友人……、大切な人たちと会うべく旅に出たのである。



 そして……もう一つ。セリは魔法使いである。

 この世界には魔法使いはたくさんいる。……が、セリは今の自分の実力はおそらくかなり上のレベルじゃないかと考えている。


 一年前、セリの祖国レーベン王国で起きたダンジョンから魔物が溢れるという未曾有の大事件。

 国が誇る高位の魔法使い達もあの魔物達の大群を前に止める事が出来ず、王都のセリの一家が住む屋敷にも大量の魔物達が押し寄せた。そして襲いかかって来た魔物は母を襲い、セリの目の前で倒れた。


 ……その時、その悲しみと怒りでセリは突如巨大な魔力に目覚めたのだ。そしてセリの覚醒した圧倒的な魔法で魔物を抑える事が出来た。

 ……母は倒れながらもその光景を眺め涙を流していた。そしてセリに『この地を離れなさい』と言い遺して息絶えた。


 母の死と、膨大な力の目覚め。……それと同時に前世を思い出したセリ。最初は驚きかなり混乱した。

 しかし周りの人々がセリの目覚めた魔法に気付く前に、母の言葉に導かれるようにそっと祖国を離れたのだ。


 祖国の家族は末っ子でほんの少しの『治療魔法』しか使えなかったセリが居なくなっても、気にしないと思う。おそらくあの魔物騒ぎの混乱で死んだと思った事だろう。

 国でも権威ある魔法使いの一族で優秀な兄弟達の中でただ1人、セリだけが弱い『治療魔法』しか使えなかった。明らかに家族の中でセリは浮いていたし、皆がその存在を持て余していたのは分かっていたから。


 そんな殆ど魔法の使えなかったセリが急に魔法を使えるようになり、祖国の高位の魔法使い達が束になっても敵わなかった魔物達を倒しましたなんて言っても誰にも信じてもらえるとは思えない。そして信じてもらえたとしても何故その時まで魔法を使わなかったのかと罪に問われる事になるかもしれない。結局は大きなトラブルになる未来しかセリには見えなかった。

 ……おそらく母もそれを案じて最後にセリに祖国を離れるようにと言ったのだろう。


 ちなみに前世では魔法使いではなかったから、優れた魔法使いの家系である現在のセリの隠れた力が目覚めたのだと考えている。



 国を出るなら思い出した前世での大切な家族や友人に会いたいと、トラブルになる前に密かに祖国を出たのだ。

 ……最後、セリを最期まで案じてくれた母に自分のハンカチをのせ、神の国へ行けるようにとお祈りをしてから。




 祖国の国境までは『転移』をし、そこからは人々が使う乗合馬車を乗り継ぎなんとかここサンタナ帝国までやって来た。使えるようになった魔法『転移』は行ったことのある場所までしか行く事が出来ない事は魔法の書を読んで知っていた。

 そして前世の故郷は記憶がどこかあやふやで位置もハッキリとは分からない。危険なので前世の故郷まで『転移』する事は諦めた。


 そして以前は出入国の制限が厳しかった祖国は今は魔物の襲来の混乱で国外に避難する人々が多く、意外なほど簡単に出国する事が出来たのだ。



 道中色んな事があったが、ピンチには使えるようになった魔法を試しながら切り抜けてきた。一つ目の街で冒険者ギルドに12歳の少年として登録し、少しずつだがお金を稼ぎつつ移動した。そうしてやっと1年かけて祖国から国二つ分離れたこの地に辿り着いたのだ。……ここまで来れば万一にも祖国の知り合いに出会ってしまう可能性は低いだろう。


 セリはこの素敵な異国の風景を眺めながら、ダンジョンもあるこの街なら仕事もたくさんあるだろうしお金を貯めながら少し腰を落ち着けて暮らしても良いかなとも考えていた。



 入国審査の順番待ちをしながらこの短いようで長かった一年を思い出していたセリだったが、随分と時間がかかっている事に気が付いた。ずっと遠くの街から馬車に揺られて来て疲れていたし、早く宿でゆっくりと身体を休めたい。


 けれどなにやら門の方で揉めているようで、まだ順番は回って来そうになかった。


 様子を窺う為に少し背伸びをしてみる。セリはこの国の平均身長よりも少し小さい。銀の髪を後ろで一つにまとめ本来は印象的な紫の瞳を長い前髪で隠した少し汚れた線の細い少年。こんな時は背が低いのは本当に不便だ。


 セリが覗いた先には、赤髪の背の高い豪快そうな青年が門番と揉めていた。どうやら冒険者のようだが……。



 セリは、青年を見て息を呑んだ。



(あの人は……! 間違いない)







お読みいただき、ありがとうございます。


レーベン王国の大災害から、約一年が経っています。


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― 新着の感想 ―
[一言] 主人公が屑過ぎるんだけど せめて母が自分を庇って死んだはよしたほうが良かった みんな困ってるけど、前世思い出したので旅に出ます まぁ苦しめられてきたのは分かるけど、屑過ぎとしか思えんわ 一応…
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