表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/62

レーベン王国 会議 その弐



 ハインツが姉シルビアに対して感じた疑惑。


 そしてその可能性に気付いたのはこの国の王子クリストフも同じだった。

 ……いや、正確にいえばクリストフはもっと早くにその可能性に気付いていた。



「……私の婚約者選びの件だが、私はあらぬ疑いがかかる令嬢を選ぶ事はない」



 王子の宣言に、ラングレー侯爵家と懇意にしている貴族が発言する。


「……いえしかし! 一年前の混乱時にはたくさんの人々が、そして令嬢達も被害に遭っております。今生き残った後継でない令嬢で一番力があり婚約者がおらぬのはシルビア・ラングレー侯爵令嬢くらいでありまして……」


「混乱時とはいえ自分の妹を囮に出そうとしたかもしれぬ令嬢をこの国の将来の王妃にと? 馬鹿も休み休み言うんだな」


 ざわり。

 会議室内はさざなみのように騒めいた。



 ……クリストフは、苛立っていた。


 約一年前の茶会。自分が一目で気に入った美しい少女セリーナ。見た目の美しさも勿論だが他の令嬢にはない清廉さ、温かな雰囲気を持っていた。彼女と話がしたい。そう思わせる何かを持っていた。

 ……しかし彼女は魔法が使えなかった。そして自分が見初めたが為に、彼女は周囲に白い目で見られとても辛い思いをさせてしまったのだ。クリストフはそれをずっと悔やんでいた。


 そしてその日の夜に起こったあの悪夢の魔物騒動。

 後日クリストフはセリーナに会いたいと彼女の安否を尋ねたのだが……。


 

 ……返ってきた答えは、『セリーナの死』。


 魔法使いとして出払っていた者以外でラングレー侯爵家の屋敷で生き残ったのは、セリーナの姉のシルビアだけだった。



 公爵家出身で魔力の強かった侯爵夫人でさえ、魔物に襲われて亡くなっていた。シルビアは当時の事は混乱していて殆ど覚えていないという。



 その後もクリストフは諦めきれず、ラングレー侯爵家の事を調べた。筆頭魔法使いであるラングレー侯爵が魔物達が殲滅された後、大怪我を負った状態でラングレー侯爵家の屋敷前で発見されたのでそれを調べる為でもあった。


 当初、魔物達の殲滅はラングレー侯爵が成した事だと思われた。それは侯爵家の屋敷を中心に魔法が発せられたと思われた事、そしてそこに倒れていたラングレー侯爵。彼が最後に力を振り絞り魔物の殲滅を成し遂げたのだと。そしてその後侯爵はずっと昏睡状態になっていた。


 しかし魔法使い達の見立てでは、侯爵は大怪我を負っていたものの、持っている魔力に大きな変化はなかった。力を爆発させたとは思えないとの事だった。

 


 だとしたら、誰が魔物達を殲滅させたのか?

 侯爵夫人は無惨にも魔物に襲われた姿で発見されており明らかに違う。それならば、もしや生き残ったシルビア嬢なのでは? という憶測が世間で飛び交った。

 ……しかしそれならばとっくに彼女はこの世にその力を表に出しているだろう。それにシルビア嬢の魔力もそれ程強くはないと魔法使い達も言っていた。


 そうして私は一つの可能性に気が付いた。……もしや、彼女か? 非常に弱い治療魔法以外『魔力ナシ』とのレッテルを貼られていた、セリーナ嬢の力が目覚めたという事ではないかと。



 一際輝く星が流れた夜に魔力の高いラングレー侯爵家に生まれたというセリーナ。初めは高い魔法力の持ち主として大きな期待をされ育てられていたという。


 それが、ある時から急に魔法が使えなくなったと聞いた。


 それは、何かに魔力を押さえつけられていたからではないのか? 幼い頃突然伸びなくなったという魔力。その頃に何かあったのでは?

 私は人の魔力を封じるなどという事が可能なのかと、時間さえあれば書物を読み調べた。……そして見付けた一つの気になる文言。



 ……『どれ程大きな力を持った魔法使いも、その力が目覚める前に『封印』を掛けられれば目覚める事が出来ない』、と。


 ……『封印』?


 もしも、幼い頃に何者かによってセリーナ嬢がその大きな力を『封印』されていたのなら。そしてあの魔物騒ぎで目の前で母親の死を見て、その力が目覚めたのだとしたら……!



 ……ぞくり。


 クリストフに恐ろしさからか興奮なのかよく分からない身震いが起こった。



 あれだけの大きな力が目覚め、そして美しく身分も申し分ないセリーナ。

 

 セリーナ嬢こそがこの私に相応しい令嬢だったのではないか? ……やはり、あの茶会で感じた彼女に対する私の直感は正しかったのだ。



 それでは、その肝心のセリーナ嬢はどこへ行ったのだ?


 幼い頃から魔法の無い者として扱われてきたセリーナ。兄であるハインツにそれとなく聞けば、あの茶会のせいでその後領地に送られる事になっていたらしい。そしてハインツの反応から、セリーナ嬢は侯爵家で冷遇されていたと思われた。


 もしも本当にあれ程の力を手に入れたのならば、兄達に拘束されてはいないだろう。……だとすれば、自ら姿を消したという事……。いったいどこへ? 

 もしも私ならば、それまでの境遇から考えて誰も自分を知らない所へ行きたいと思うのではないか。……となれば、国外か!? 



 私はもしセリーナ嬢が生きているのならばその可能性が高い事に気付いたが……、残念ながら動く事が出来ずにいた。


 今このレーベン王国が国を挙げて未曾有の大災害の後始末をしている時に、理由も告げずしかも確実な証拠も無しに一人の少女を探すなどという事は出来なかったのだ。



 それで、私は勝負に出た。


 最近一部の貴族の間で名前の挙がっているセリーナの姉シルビアとの縁談を完全に潰す事。


 そして……セリーナの、魔法使いとしての可能性を指し示す事を。


 

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ