どうやら俺は転生したようです
突然だが、俺には前世の記憶がある。
前世では日本という国で、平々凡々に暮らしていた普通の男子大学生だった。寡黙な父とお喋りな母、あとは乙女ゲーが好きな妹がいた。
妹とは仲が良かったのもあり、妹がよくやっていた乙女ゲーム『ポラリス』も一緒にプレイしていた。
『ポラリス』は中世のような世界観で、『導きの星』と呼ばれる聖女が1000年に1度生まれる。それが主人公だった。デフォルトネームがあった気がするが、妹は変更してプレイしていたので覚えてない。
『導きの星』は生まれた時から瞳に星を宿し、多くの人々を最良に導く力を有していると言われ、生まれが平民だとしても王族と同じくらいの権力を持つことになる。
今回生まれた『導きの星』であるヒロインは、今まで『導きの星』だと気づかれずに孤児院で15年間暮らしていた。たまたま孤児院に訪れた神官が見つけ出し、国のことを学ぶために平民でありながら特別に貴族たちが通う王立学園に入学する。
そこで出会う多くの攻略対象たちと協力し、聖女として胸が張れるように成長していく…といったストーリだ。
俺はその中で、ヒロインのライバル役の悪役令嬢が好きだった。
月のように光り輝く銀髪に、明るい夜のような紫の瞳を持ち、可愛らしいヒロインとは対称的な印象を与えるクールな美女だった。
孤高で完璧。成績も常に上位で所作も上品。誰も寄せ付けないような冷たい眼差しは、ゾクゾクした。
…あ、誓って言うが俺はマゾではない。
ヒロインが攻略対象と親交を深めようとすると、ランダムで悪役令嬢が現れ、ヒロインの魅力値が低いと攻略対象との会話を中断させ、親交を深めることが出来なくなるというシステムで邪魔してくる。
また、どの攻略対象とのルートに入ったとしても、悪役令嬢は途中でルートに入った攻略対象と婚約を結ぶので、ヒロインと攻略対象との仲を更に邪魔してくる。だからといって直接危害を加えるわけではなく、警告をしてくるだけだった。
…というか、婚約者を惑わす女がいたら、邪魔するのは普通じゃね?という考えはゲームの世界では通用しないらしい。
悪役令嬢が現れる度、俺は「悪役令嬢キター!!」と歓喜していた。…妹は「悪役令嬢キター!」と悲鳴を上げていたが。
…しかし、最後の卒業パーティで、王族と同格の『導きの星』を害したということで断罪され、処刑される。
俺は、妹に何度も頼み、悪役令嬢が救われるルートを探した。
攻略サイトすら読み込んでみたが、ダメだった。全てのルートで彼女は処刑されていたのだった…。
そんな悪役令嬢の名前は、セレネ・ユースティア伯爵令嬢。
完璧だった彼女が何故断罪されるような証拠が見つかったのか。それには理由がある。
彼女に仕える執事の存在だ。
その執事はヒロインを害するときの協力者として、セレネと共にいたのだ。だが、自責の念に押しつぶされ、ヒロインと攻略対象に罪を告白。それが証拠となり、セレネは処刑。執事はヒロインに許され、無罪放免。
なんて、酷い話だ。彼女は唯一信用していた執事に裏切られたのだ。前世で何度もぶっ●してやると思っていた相手だ。
その執事とは……………………今世の俺、ラウルである。
そう、俺が転生した世界は『ポラリス』の世界だった。
人生何が起こるか分からないものだ。そもそも乙女ゲーの中に転生するというのも不思議な話だが。