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紅蓮の華  作者: B・T
4/5

愛する人

 俺達は予定通りの場所へ到着。

 こんな状況になる前、何度か来た事がある場所だが、もう見る影も無い。

 そびえ立っていたビルは崩れ落ち、道路は見る影も無い。

 だが、もうそんな事はどうでも良いので、化け物共に注意しながら、物資を探す。


「(未開封の酒とかあればな)」


 食料や医薬品も大事だが、ワイロ用の酒なんかも探す。

 基本的に、酒とタバコが人気で、しょっちゅう頼まれる。

 酒ならチョコレート、煙草ならキャンディーを貰えることに成っている。

 もう一度あの笑顔に会うべく、俺は張り切る。


「(昨日はキャンディーだったから、次はチョコレートをあげたいな)」

「恋人の為に、張り切らねぇとな」

「ああ、張り切るぜ」


 そんな軽口を叩きながら、俺は捜索を開始。

 その際、不意に空を見上げた。

 赤黒いモヤがかかり、日差しの一切ささない空。

 化け物共の数が増えるたびに、空はにごって行った。

 もう青空や星なんて単語を忘れてしまう位、空は暗く成っている。


「何時かあの子と、空を眺めたいぜ」


 月も、太陽も、星も。

 何もかもが遮られている。

 もしもあの子の夢の通り、あの子が鳥になれたら、あの空の向こうまで……

 いや、それこそ夢物語か。


「……いっそ、別の世界で、二人一緒に、鳥になれたらな」


 こんな世界、もう捨てたい気分だ。

 今ほど状況が酷くなる前。

 地球を脱出しようという試みも有った。

 だが、月に飛べるくらいが精々の科学技術だけでは、間に合わなかった。

 その結果が、この荒廃した世界だ。

 でも仕方ない事では有る。


「ある日突然、だったもんな」


 当時、俺はJKとして、友人とネットで自慢できるような写真を撮っていた。

 漫画やアニメを見たり、友達といろんな所に行ったり、平凡に過ごしていた夏休み。

 それが突然終わった。

 突然アラートが鳴り、全員避難しろと言われた。

 訳の分からないまま、俺達は自衛隊の避難指示に従った。


「そして、こうなったんだったな」


 避難指示に従い、逃げた矢先、化け物に襲われた。

 見た事の無い、異形の存在。

 そいつらに襲われた者も、化け物となり、次々と数を増やした。

 その後、どうやって生き残ったのか、正直覚えていない。

 ただ一つ、覚えているのは、仲の良かった友人の手を引いて逃げていた事。


「……」


 俺は、手を眺め、その時の事を思い出した。

 多くの化け物に襲われ、逃げのびたのは、俺と彼女の腕だけだった。

 途中で食われてしまったのか、食いちぎられた跡があった。

 あの時のショックは、今でも覚えている。

 それからだった、あまり寝られなくなったのは。


「……さて、さっさと集めるか……ん?何か光って」


 捜索を再開しようとすると、瓦礫になにか埋まっているのを見つけた。

 それを見つけた俺は、思わずにやけてしまう。

 見つけた物をポケットにしまい込んだ俺は、いつの間にか離れていた部隊の皆と合流する。

 妙に嬉しそうな顔をしていたせいで、詮索されたが、適当にながした。


 ――――――


 十数分後。

 俺達は集めた物資を確認していた。

 酒、飲料水、缶詰などの保存食。

 全て未開封の物だ。

 ヘリへの積み込み作業を終えた俺は、流れる汗に爽やかさを感じた。

 初めて労働の汗と言う物をかいた気がする。


「何とか成ったな~」

「さっきから妙に嬉しそうだな」

「まぁ、良い物見つけたんでね~」

「やれやれ、お前はいい物見つけたかもしれないが、薬なんかは、結局見つけられなかったんだぞ」

「ああ、もう薬が底つきかけてるってのに」


 と言うか、医者もほとんどロクな奴が居ないので、有っても意味は無い気はする。

 だが、蓮が風邪をひいたら。

 等と考えると、薬は欲しい所だ。

 しかし、良い物は見つけた。

 次で良いだろう。


「さぁ、さっさと戻るぞ、ヘリの燃料だって、無限じゃないんだ」

「りょーかい」

「なんか、本当に随分上機嫌だな」


 変に長居すれば、化け物共を引き寄せる危険や、燃料も尽きてしまう。

 なので、早い所撤収するべく、ヘリへと乗り込む。


「何だ?酒でも手に入ったか?」

「いや、もっといい物だ」

「何だ?ちょっと教えてくれよ」

「残念、乙女の秘密だ」


 ヘリで他愛も無い話をしながら、俺達はシェルターを目指す。

 後数十分もすれば、シェルターにたどり着く。

 そうすれば、またあの子と。

 完全に浮足立ち、後少しで夢の中へと入り込みかけてしまう。


「おいおい、寝るなよ、昨日は大目にみただけだぞ」

「おっと、コイツはすまん」


 またウトウトしかけてしまった。

 今回ばかりは、軍曹も許さないだろう。

 でも、今日はいつも以上に帰るのが楽しみだ。

 早く着かないかと、ソワソワしていると、操縦席の方が妙に騒がしく成って来る。


「こちら戦闘班、着陸の許可を……繰り返す、着陸の許可を」

「如何した?」


 何時もなら一回だけですむ通信を、パイロットは数回行っている。

 以前にもまして、通信が通じづらくなっているのだろうか?

 無線は通じづらくとも、レーザー通信のような物であれば何とか通じる。

 あまりにも通じない時は、レーザーでも通じない事はある。

 いや、何か変だ。


「ダメだ、通じない」

「回線に異常は?」

「いや、無い」

「おい、あれを見ろ!」

「しぇ、シェルターが!!」


 伍長の言葉に、俺は窓からシェルターを見る。

 俺の嫌な予感は当たっていた。

 シェルターは、大量の化け物たちが群がられていた。

 しかも、既に防衛線は突破され、内部まで侵入されている。

 これでは通信なんて、通じる筈がない。

 だが、そんな事よりも、蓮の安否が気になってしまう。


「おい!早く下ろせ!」

「待て!この数、中はもう」

「良いから、早くしろ!!」

「わ、わかった、俺は行かないからな!」


 蓮を助けるべく俺は無理矢理ヘリを下ろす。

 しぶったパイロットに、拳銃の銃口を向け、強制的にヘリを屋上へ下ろさせた。

 だが、この状況だ、降りたくないのも解る。

 伍長のように、ここで居る事が、一番正しい答えだ。

 だが、俺は救出へ行くべく、アサルトライフルの弾数を確認し、すぐにヘリを降りた。


「本当に行く気か!?」

「当然だ、あの子を助ける!」


 こんな無茶な事をする俺を、軍曹は止めて来る。

 だが、逃げ出して彼女を見捨てる位なら、俺は死んだ方がマシだ。

 軍曹の命令を無視し、俺は施設内へ入ろうとする。


「まて……ここは死守する、できるだけ大勢を助けてこい!」

「……感謝します」


 それでも止めて来た軍曹だったが、俺に軽機関銃を渡してくれた。

 ヘリのドアガンとして取り付けられていた物だ。

 軍曹に感謝を述べた俺は、シェルター内部へと侵入。

 非常階段を駆け下り、居住区画まで走る。


「待ってろ、すぐに行く、蓮、生きていてくれよ!」


 機関銃で敵を薙ぎ払いながら、俺は蓮を探す。

 今度こそ、助け出す。

 もうあんな思いをするのは、嫌だ。

 自分だけ生き延びる位なら、あの子と一緒に死ぬ。


「ウオオオオ!!」


 よく機関銃をうちながら、叫ぶ話を耳にするが、今ならその気持ちが解る。

 押し寄せて来る無数の敵。

 弾をばらまく為の銃。

 アイツらを呼ぶ行為であっても、こうしたくなる。


「どけ、退きやがれぇぇぇ!!」


 銃身が焼け付く事なんてお構いなしに、俺は銃弾をまき散らす。

 愛する人を、助け出すために。


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