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紅蓮の華  作者: B・T
3/5

情熱

 翌日。

 目覚めた俺達は、朝のルーティーンをすませていた。

 もちろん、蓮はまだ色々と一人でできないようなので、俺がサポートしている。

 そのおかげで、俺の母親も似たような苦労をしていたのだと、痛感できた。

 でも、この子の為なら、何だってできる。


「こうちゃん、きょーもおしごと?」

「ん、ああ、今日もだ、ごめんな、最近忙しくて」

「そっか、ざんねん」


 朝飯を食べ終えた後。

 蓮は今日も仕事だという事に、悲しい顔を浮かべる。

 俺だって、本当はもっと一緒にいたい。

 だが、こうして補給の担当で居る方が、良い暮らしができる。

 しかたがない。

 一週間に一回位支給される、レトルトのカレーだとか、カップ麺だとか。

 そう言った高カロリーな物は、補給担当でないと、有りつけないような物だ。

 色々といじれる配給班は、高級軍人だとか、この施設の上を目指さなければ成らない。

 でも、席は独占されているから、俺がそこに這い上がる事はできない。


「……」

「ご、ごめんね、俺も、もっと一緒に居たいんだけどね、お仕事だから、仕方がないの」

「うん、そうだよね……ゆめでみたように、なればいいのに」

「夢?」


 完全に落ち込んだ蓮は、悲しそうにつぶやいた。

 どうやら、夢で何かを見たようだ。

 ベッドに座り込み、その夢の話を、俺は彼女と同じ視線になる様に座って聞く。


「うん、えっとね、ゆめでみたの、わたしが、とりさんになるゆめ」

「鳥さん?」

「うん、じゆーに、おおきな鳥さんにへんしんして~、こうちゃんといっしょに、いろんなところにいくの」

「そっか」


 外は危ないと言い聞かせ、何時もこの部屋で過ごしてもらっている。

 実際、外は危険だ。

 車を使っても、すぐに足元をすくわれ、全員あいつらの仲間入り。

 俺達は何時もヘリを使い、空路で移動している事を仕事の話をしたときにした。

 その時の事を、まだ覚えているのだろう。


「そしてね、おいしーもの、たっくさんたべて、それでねー」

「うんうん」

「いっしょに、おふろ?っていうやつにはいってね、えっと、それから……」

「ふふ、あんまり、焦んなくても良いよ」

「ん」


 言葉に詰まる蓮の頭を、おれはそっとなでる。

 この子の知識や記憶は、全部俺が与えた物だ。

 拾った時から、この子は言葉以外の一般常識を持っていなかった。

 だから、知識を得られるタイミングは、俺との話や、古雑誌を読むとき程度。

 名前すら無く、本当に無垢な赤子と言っても、良い位の子供だった。

 蓮と言うのは、俺が名付けたもの。

 俺の救済となり、そして、何時までも清らかな心でいて欲しい。

 そんな願いを込めた。

 その為にも、色々な事を教えたいが、俺もずっと一緒に居られる訳ではない。

 でも、叶わないとしても、そんな夢は見たいな。


「鳥さんにならなくても、何時か、一緒に空を旅しような」

「……良いの?」

「ああ、もっと大きくなったら、連れて行ってやる」

「おやくそく、できる?」

「ああ、約束だ」


 小指同士をつなげ、俺と蓮で指切りをする。

 満面の笑みで腕を振る蓮は、俺の癒しになってくれる。

 この世界が平和に成らなくとも、せめて今を維持できれば、何時かはこの子と。

 できれば、この子を戦わせたくないが、約束だ。

 必ず、この子に空の旅を。


「さて、もう行かなくちゃ」

「うん、お仕事がんばってね!」

「ああ、ご飯のゴミは、何時もの人に渡すんだよ」

「は~い」


 元気に返事をした蓮に手を振り、俺は仕事へ向かった。

 そこからは、俺の暗い一日が始まる。

 あの子のそばにいないと、どうも気分が沈む。


「……はぁ、ずっとあの子と居たいってのに」


 鏡で見れば、俺の今の表情は、自室にいた時と比べれば、全く正反対に成っているかもしれない。

 だって、部屋を出た途端、俺の肩にデカい岩がのしかかったように重くなる。

 足も、何かがつかまっているかのように、ずっしりとした感覚もある。

 千鳥足同然の動きで、更衣室に向かい、何時もの戦闘服に着替え、集合場所へ向かう。


「(あとどれ程続くんだ?こんなバカみたいな生活)」


 そんなグチを考えながら、俺は集合場所へと移動する。

 バカな、と言っても、こんな状況になって、初めて気づく事も有る。

 今までの生活が、どれほどありがたい物だったのか。

 話によれば、人類の総人口は一割未満との事。

 このシェルターに住む、数百人の市民以外は、もう見た事ない。


「なぁ、コイツは噂なんだが、南の辺りにあるシェルターが壊滅したらしい」

「そいつは本当か?」

「ああ、それに、もう西側の地域は全滅らしい」

「もううんざりだ、こんな生活、今日の配給も、昨日より少なかった、遠征に行ってる連中は何してんだよ」

「このまま食料が尽きるのが先か、化け物共に食われるのが先か」

「せめて、化け物になる事だけは、避けたいな」


 通路を歩いていると、市民達の会話が聞こえて来る。

 彼らの聞いた噂は本当だ。

 この国の各地域には、ここと同じ設備のシェルターが複数設置されている。

 さっき話に出ていた噂は全て本当、ここ以外の生存区画は、もう数える位しか残っていない。

 ここと、他に生き残っている基地とは、有事の際でも交信できるように、全て有線による通信を使っている。

 通信の取れるシェルターは、設備破損でなければ、繋がるのはあと一つ。

 そこも、もう補給物資が尽きそうだって話だ。


「……」

「どうした?しけた面して」

「いや、ちょっとな」

「まぁいい、今日は西の方に行くらしい」

「そうか」


 途中で、偶然にも伍長と会う。

 道中、適当に話をしながら、集合場所に移動。

 そこでは、何時ものメンバーがそろっていた。


「……お、遅かったな」

「すまん」

「さて、話をきこうか」


 全員そろい、俺達は上官からの指示を聞く。

 任務は、何時もの通り物資の調達。

 伍長の言っていたように、西側へ行き、資源を調達。

 出来る事であれば、医薬品を優先してほしい、との事だ。


「……よし行け!世界が平和になるまで、俺達は戦いぬく!」

『サーイエッサー!!』

「(オフィスでぬくぬくしてやがる奴が、ぬかしやがって)」


 そんな事を思いながら、俺達は何時ものヘリへと移動。

 実際、この基地で真面に戦っているのは、俺と他に数個の分隊。

 今指示を出した連中は、デスクでふんぞり返っているような奴らだ。

 心にわずかな殺意を誤魔化しながら、武器を持ち、ヘリに乗り込み、出発する。

 外に出る時は、比較的楽に出られる。


「……さて、出発だ!」


 ヘリに乗り込み、俺達は出発する。

 できれば、あの子に何かお土産でも有ればいいのだが。

 宝石だのなんだの、そう言った物は、触れたりして感染する事は無い。

 まぁ、誤飲とかのせいで、感染することは有る。


「(蓮、絶対に帰るからな)」


 ローターに揺られながら、目標の場所へと向かう。

 あの子の姿を思い浮かべながら。


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